やぎ座
リアリティーをかき混ぜる
脳の攪拌
今週のやぎ座は、『解夏』という映画のワンシーンのごとし。あるいは、いまある恐れを手放していこうとするような星回り。
さだまさしの短編小説集の表題作であるこの作品は、ある日突然医師から失明する可能性が高いという宣告を受けた30代の元教師の男で、故郷の長崎に帰って失明するまでの間地元を周って故郷の景色を脳裏に焼き付けることを決めるものの、その恐怖や喪失感から恋人とケンカをしてしまったり、ひとりやり場のない思いに苦しんでいる。
そんな折、用事で訪れた寺で、ある老人に教わったのが「解夏(げげ)」という言葉でした。「解夏」とは、仏教の僧が夏に行う安居(あんど)という修行が終わる時を言い、主人公の男がたまたま寺を訪れたのがその始まりの日である「結夏(けつげ)」だったのです。
他の人にはなかなか素直に自身の病気について語れなかった主人公が、なぜかその老人には素直に自分の病状や今後の経過の目安などについて話すことができたのですが、老人は別れ際、ポツリと「行ですな」と言い、次のように主人公に語りかけるのです。
「失明した瞬間にその恐怖からは解放される。くるしか、せつなか、行ですたい。
ばってん、いつかは必ず来るとです。その日があなたの解夏です。」
同様に、15日にやぎ座から数えて「潜在的な心理」を意味する12番目のいて座で今年最後の新月を迎えていくあなたもまた、自分のなかに残っていた“おり”のような気持ちや衝動があぶりだされていくようなタイミングとなっていくでしょう。
触覚の効用
私たちは日頃、物事の目に見える側面や手や足で直接触れる部分など、じつに断片的な知覚データをなんとかひとつにまとめてそれを「物事の在り様」や「自分の身体」としてまとめ上げている訳ですが、そうした「まとめ上げ」というのは五感に拠らない統合作用であるということをついつい忘れがちです。
あるいは、『解夏』の主人公のように、自分を構成している大切な風景や視覚的記憶を、触り心地や手つき、身振り、動作に変換していくことで、これまでとは異なる生き方や生活にパッと導かれていく瞬間というのは、そうした統合作用の重要性を思い出す数少ない貴重な機会なのだとも言えるでしょう。
脳科学的には、これは今まで視覚に比べて劣位だった「触覚」が活性化されることで脳の中の「橋脳(きょうのう)」と呼ばれる部分が刺激され、その入力された感覚を視覚化する情報処理機能に、これまでにない変化を与えることで、これまで見えていなかった未来への展望が開かれていくという、逆説的な現象なのだと説明できるかも知れません。
いずれにせよ、今週のやぎ座は、そんな風に自分の断片的な経験や記憶をまとめ上げていくためのあれやこれやに奔走していくことが、一つの大きなテーマとなっていきそうです。
今週のキーワード
閃光的橋脳体験