やぎ座
幻想を吐き出す
月に誘われて
今週のやぎ座は、「ほうと吐き一糸まとわぬ月自身」(小津夜景)という句のごとし。あるいは、すすんで生身の自分をさらけ出していくような星回り。
「一糸まとわぬ」とはつまり素っ裸ということ。しかし、それは作者自身か、それとも月のことか。
蚕のように「ほうと」糸を吐いているのは、生きている他ならぬ私であり、その集積物はさながら繭のごときものが夜空を浮き上がっていったのかも知れない。しかし、月自身はそれをまとわなかった。一糸として。
なぜだろう。人間の吐いた息でできた繭を着込むよりも、白く輝いているみずからの裸身の方が美しいことを本能的に知っていたからだろう。
そしておそらく、ほうと息を吐いた人間の方も、月がそうするであろうことを分かっていたのではないか。分かっていながら、月があえて一糸もまとわずに天に在り続けるところを直接目撃することで、彼此(ひし)の断絶、その埋めようもない空白を改めて感じたかったのかも知れない。そう考えると、丸裸になったのはむしろ作者の方なのだとも言える。
31日にやぎ座から数えて「息吹」を意味する5番目のおうし座で、「冴え」の星である天王星とともに満月を迎えていく今週のあなたもまた、掲句における作者の側となるのか、月の側となるのか、そのいずれかに振れていくだろう。
神の子供たちはみな踊る
例えば誰かと会話していて、互いを認め合うために育ちや背景にその根拠を探っていったとき、「自分だけに起きた特別な体験や感覚」だと思っていたことが、案外みんな経験してきた普通のことだったと分かる、なんてことはよくある話ではないでしょうか。
そうした気付きは、新たな仲間意識を燃やしたり、自分たちが同じ地平で踊る「神の子どもたち」なのだという解放感へ発展していくきっかけにもなりえます。結局、社会的な記号や文化的背景の違いは人としての優劣を決めるものではなくて、宇宙レベルで見れば、ほんのささいな役割や機能の違いに過ぎないのです。
今週のやぎ座は、偏見や決めつけをしないで話を聞いてくれる相手を見つけたら、とことん自分語りをしてみるのもいいでしょう。誰かの胸を大いに借りてみることで、悪い夢から醒めることだって起こり得るかも知れません。
今週のキーワード
胡蝶の夢