やぎ座
大河の一滴として
記憶の光景に立ち返る
今週のやぎ座は、「おおかみに螢が一つ付いていた」(金子兜太)という句のごとし。あるいは、自身の根底に流れるエネルギーに照準を合わせていこうとするような星回り。
螢(ほたる)はお尻を光らせ、螢を体につけたおおかみは目の力をもって存在の光を示している。そんな記憶の中の光景について詠んだ一句。
もちろん「おおかみ」はもういなくなってしまいましたが、人々の中には実際に見たこともないにも関わらず、おおかみの目が光っている記憶が今でも残っているように思います。
おそらく、闇の中で光るそうした目の記憶こそ、人間を圧倒する原始的な自然の放つ荒々しく強大なエネルギーの象徴であり、ある種の民族の記憶の根底に生き続けていくのではないでしょうか。
作者はいまだに堆積した古生層が山中にひょっこり顔を出し、化石も出土する秩父を地元とし、この地には古来よりおおかみが多く生息したと言います。
6月28日に「荒々しいエネルギー」を司る火星がやぎ座から数えて「記憶と先祖」を意味する4番目のおひつじ座へと移っていく今週のあなたもまた、ひとり自分の力だけで戦おうとするのではなく、記憶や文化を通じて伝えられ維持されてきた基盤の上に立ち、それらの力添えを受けていくことがテーマとなっていくでしょう。
生命の流れとの調和
1913年にアジア人で初めてノーベル賞を受賞(文学賞)を受賞したインドの大詩人タゴールには、サンスクリット語で「生の実現」ないし「霊的な修行」を意味する『サーダナ』という著作があり、そこでは彼の大らかでありながら繊細な生命観が語られています。
例えば、「われわれは至るところで生と死との戯れ―古いものを新しいものに変える働き―を見ている」という言葉には、老いや病いといったものは生命に付き従う影に過ぎず、われわれの生命は川の流れのように、無限なる海に開かれ続けているのだという彼の肉声が今にも聞こえてきそうです。
そして、今のあなたへ特に贈りたいのは、次のような一節。
「生命が詩と同じように、たえずリズムを持つのは、厳格な規則によって沈黙させられるためではなく、自己の調和の内面的な自由をたえず表現するためである」
自分のなかの不調和な不自由ではなく、調和な自由を表現するためにこそ、私たちは日々、会社で働いたり、家事をし、本を読み、夜寝る前に日記をつけたりするのかも知れません。
今週のやぎ座はそれらひとつひとつの日課の手応えを確かめながら、自身の中の生命の流れを感じていきたいところです。
今週のキーワード
『サーダナ』