やぎ座
地が出るということ
水温む
今週のやぎ座は、「これよりは恋や事業や水温む」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、自らに課されたくびきを解いて、より自然な動き出しを促していこうとするような星回り。
詞書(ことばがき)には、「高商俳句会。高商卒業生諸君を送る。」とあります。掲句は一橋大学の前身である東京高等商業学校の卒業記念句会で出されたもので、作者はほとんど直球の言葉で、彼らの今後をことほいでいます。
春に向けて自然界が胎動をはじめる契機とも言える「水温む(みずぬるむ/ぬくむ)」という言葉選びも、まさに厳しい勉学の期間を終えて、一人前の大人として恋に実業に活躍していこうとする若人にふさわしい季語と言えるでしょう。
作者はこのとき42歳ですが、ことほいでいる自分自身も、どこかで卒業生とその喜びを共有しているようにも感じられます。 42歳と言えば、男性の場合は本厄にあたる年齢であり、ある種の祓いの意図もあったのかも知れません。
その意味で、19日(水)に太陽がやぎ座から数えて「発信」を意味する3番目のうお座へと移っていく今週のあなたもまた、いつも以上に自分の発する言葉の力の大きさを認識しつつ、 その適切な運用を心がけていくといいでしょう。
つかえが取れる
江戸時代の三大俳人の一人である小林一茶は、庶民的な句を大量につくりだしたことで知られていますが、四十を少し過ぎたあたりから句が明らかに変わっていきました。
かなり露骨な貧乏句を作るようになったり、他にも奇妙な変わり様を見せるようになって、これが長年の庇護者たちの首を大いにかしげさせました。いい変化なのか、わるい変化なのか判別がつかなかったのです。
この点について、例えば作家の藤沢周平は評伝小説『一茶』の中で、自身も高名な俳人で一茶の生活の世話などもしていた夏目成美(なつめせいび)に次のように語らせています。
「これを要するに、あなたはご自分の肉声を出してきたということでしょうな。中にかすかに信濃の百姓の地声がまじっている。そこのところが、じつに面白い」
今週のあなたもまた、どこかで自分が変わりつつあることの予感や実感を、誰かとの会話や対話の中でつかんでいくことができるかも知れません。
今週のキーワード
肉声の自覚