かに座
正直戦車
「ろくな人間じゃないですね」
今週のかに座の星回りは、「私とは何の関係もない景色」のごとし。あるいは、第一感で違和感を感じたものはバッサリと切り捨てていこうとするような星回り。
ギター演奏家で作家としても成功した深沢七郎は、42歳のときに民間伝承の姥捨て伝説を題材にして書いた処女作『楢山節考』でデビューしました。その評価は高く、三島由紀夫をして「慄然たる思ひ」を只一度感じた「不快な傑作」と言わしめたほどでしたが、後年深沢は同書について、対談で次のように語っていました(相手は文芸評論家の秋山駿)。
深沢 『楢山節考』がいいなんていう人が今まででありましたけどね、若い人で、二十歳位の人で、そんな人はろくな人間じゃないですね。あのもうこの間もそういうの来ましたよ。一年ばかり前に、『楢山節考』がよかった、そして何かサインしてくれって来たんですよ。それで、あんたはばかだなあ、あんたは仕事嫌いで、理屈ばっかり言って、親の銭ばかりたかるんじゃないの、いって言ったら、そいつは正直な男でね。そうです、そうですと言いましたね。そんなような人間がね、『楢山節考』はいいですねと言いますね。今まで、過去そうだったから。まあ四十、五十位の人だったらね、まあその人なりのよさが、いいなっていうけど、そんな二十位でもって、十七、八でいいなんていうのは、少しどうかしてますよ。
秋山 でも、それは、だから、あの小説がいいから、若い人もわからなくても好きだから読む。
深沢 若い人がいいって言うのは、私は、どうもあてになりませんね。理屈言いで、うまいものでも食って、年中遊んでいたような人がいいなんて言う。『楢山節考』という小説はうまいものを食ったというあとあじの感じのする小説ですね。(『滅亡対談』)
深沢にとってに世界とは、「私とは何の関係もない景色」であり、「面白きゃいいんだよ、ただ」という小説観もまたそうした世界観と表裏の関係にあったのだと思います。
10月11日にかに座から数えて「他者との距離感」を意味する7番目のやぎ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、そうした「飄々としたさま」をどれだけ発揮していけるかということが問われていくでしょう。
藪蛇になるを辞さず
今週のかに座は周りから見るといつも以上に浮いていると言うか、それが本来のあなたらしさなのかも知れませんが、かなりぶっ飛んだ人のように見られるかも知れません。
しかし、たとえバカバカしい思いつきのように見えたとしても、直感的に自分に訪れたものを本気で無心で追いかけてみるという経験そのものが今のあなたには必要なのでしょう。
アテが外れてがっかりしたり、可能性を見失って途方に暮れたりしても歩みを止めないことが肝要です。歩めば歩むほど、あなたのおバカに付き合ってくれる仲間や協力者が現われたり、自分ひとりでいじけている時には想像もできなかったような事態が展開されていくはずです。
今週のかに座は、かりに進んでいこうとしている先が藪の中、未知のふところであったとしても、臆さず前を向いて突き進んでみるといいでしょう。
かに座の今週のキーワード
「面白きゃいいんだよ、ただ」