かに座
しがらみごと呑み込む
酒飲みの鷹揚さ
今週のかに座は、『君達の頭脳硬直ビヤホール』(藤田湘子)という句のごとし。あるいは、場所の力を借りて厄介で面倒な“しがらみ”にこそ向き合っていくような星回り。
早ければGWあたりから、ビアガーデンにBBQに仲間と繰り出してパーッとやろうという手合いが出てくるが、掲句がおもしろいのはそんなロケーションではしゃぎ回る訳でなく、逆になにやら顔を寄せあってしかめっ面をしているようなところ。
近年は酒の席が苦手だという若い人の声をずいぶん見聞きするようになったが、会社の飲み会とかイベントの打ち上げなど、個人的に親しい訳ではない間柄での酒席を苦手とする人自体は昔からそれなりの割合でいたから、いくらか声を上げやすいご時世になったということなのかも知れない。
掲句の場合は、どちらかと言うと家族や師弟など親しすぎる間柄であるからこその「頭脳硬直」を感じさせるが(作者はおそらく目上の立場)、親しすぎても親しくなくてもそれが“しがらみ”になってしまう意味ではいつの時代も変わらないのだろう。
とはいえ、昔の酒飲みには目の前で取っ組み合いの喧嘩が始まっても悠然と酒を飲んでいるような鷹揚さがあったし、作者にもどこかそれに通じる鷹揚さが漂っているように感じるのは、ビヤホールという場所の力も関係あるに違いない。
5月23日にかに座から数えて「社会的本能」を意味する6番目のいて座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、向き合うべき“しがらみ”をよくよく選んだ上で、そこに自分なりの潤いやユーモアを注いでいくべし。
ダンテとウェルギリウス
例えば、13、4世紀の大詩人ダンテはその代表作『神曲』で知られていますが、この作品は人生の半ばを迎えた彼自身が、ある日暗い森の中に迷い込み、そこで地獄に入ってから抜けていくまでの壮大な遍歴譚の体裁をとっています。
そしてダンテがひとり暗い森で絶望していた際に出会い、自身の導き手となってもらったのが古代ローマ最大の詩人ウェルギリウスの魂(影)でした。この先輩詩人は、地獄や煉獄において、ダンテが怪物や亡霊や難所にぶつかって心が挫けそうになるたびに叱咤激励し、背中を押してくれ、そのおかげでダンテはなんとか自分を見失わずに済んだのです。
ただしそれは、単に幸運に恵まれたということではなく、ダンテが初めて会ったにも関わらず、自分の背中をあずけられるほど、ウェルギリウスのことを敬愛し、みずからの魂をその交流に開いていけたからなのですが、そこには少なからず場所の力の後押しもあったはず。
今週のかに座も、向き合う対象がどのようなものであれ、どうせ関わるなら地獄におけるダンテとウェルギリウスくらい深く交わる気があるのかどうか、今一度自問してみるといいでしょう。
かに座の今週のキーワード
もはや地獄としての職場