かに座
かすかな消息を追って
地上の星座へ
今週のかに座は、『美しきものに火種と蝶の息』(宇佐美魚目)という句のごとし。あるいは、目に見えないゴールの方へと魂を向け直していこうとするような星回り。
「蝶」は古代ギリシャ語で「プシュケー」と言い、これは「魂」という意味も持っていますが、「蝶の息」という措辞はそれをずばり一言で言い表してしまっており、その一点だけでもすでに他の追随を許さない高みにあるように思います。
風にあおられて飛んできた蝶が、どこかにとまってそっと息をととのえている。その息づかいに合わせ、両の翅がゆっくりと開閉していく様子には、確かに見るものを魅了する何かがある。そして「火種」もまた、火という命脈を絶やさぬように、密かに息をしているのではないか。
いずれも、この世界の片隅で、身をひそめて生きている小さき命への気づきが元にあり、そうと気づいた途端に、火種と蝶とがまるで呼応しあうかのように、地上で星座を結んでいくように感じられてくるはず。
かくのごとく私たち人間もまたありたいものですが、現実の人類はそうした美しさとは対局の在り方を地球上でますます突き進んでいます。その意味で、4月24日にかに座から数えて「生きざま」を意味する5番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたにとって、小さな、しかし決定的な「魂の向けかえ(ペリアゴーゲー)」をはかっていくにはもってこいのタイミングと言えるでしょう。
何かが起こりそうな気配を捉える
現代社会に暮らす私たちは、同じようなことばかり起こる日常の連続をごくごく平凡なことだとか、代わり映えしない退屈なことと思いすぎる傾向があります。そこで、何か劇的な変化を求めてついつい変わったことをして有名になろうとしたり、とりあえず海外へ旅に行ってみたり、出会いを求めたり、家を変えたり、酔っ払らおうとしたりする。
けれど、何かが起こりそうな気配の発生してくる震源地というのは、非日常ではなく、むしろ日常の中に埋没して在るものです。一見何も起こらない“閑静な”シーンにこそ、目を向けアンテナを立てるべき対象は潜んでいる。例えば、
「あの三流の付き人を演じているのは、一流の役者かも知れない」
といった、「ひょっとしたら」の感覚。それが幾度か重なり、「まさか」の渦となって高揚し始めてきたとき、現実はあっけなくひっくり返り、スッとかすかな消息を残してどこかへ消えてしまったりする。
今週のかに座もまた、そうした気配にぜひとも敏感になって、世界の片隅でひそかに息づいているものに、まなざしを向けていきたいところです。
かに座の今週のキーワード
気配の震源地