かに座
社会的コードから外れる鍛錬
立ち止まると考えは止まる
今週のかに座は、「孤独な散歩者」として生きたルソーのごとし。あるいは、思想的な豊かさの土台としての“足腰”をあらためて鍛えていこうとするような星回り。
人間の理想的な状態は文明や社会の中にではなく、自然の中にこそあると説いた政治哲学者で、フランス革命を大きく後押ししたことでも知られるジャン=ジャック・ルソーは、晩年に著した『孤独な散歩者の夢想』の中で次のように書いていました。
わたしが集中できるのは歩いている時だけだ。立ち止まると考えは止まる。わたしの精神は足がともなう時だけ働くようだ
これは文字通り日ごろの生活習慣の心得として受けとれると同時に、幼少期から出奔(しゅっぽん)と放浪を余儀なくされ、移動し続けることを半ば運命づけられていたかのようなルソー自身の人生の軌跡を比喩的に言い表したものとしても受け取ることもできますが、消費行動がパターン化された今の時代においては、ほとんどの現代人にとって“思考停止の危機”への警鐘として響いてくるはず。
というのも、ふらふらぶらぶらと歩き回る機会の喪失は、自分の頭で考える習慣の放棄に他ならないから。日頃から自身の行動を振り返る習慣のある人なら、現代人が知らず知らずのうちに自由をすすんで放棄し、自分の足で歩かずにすむこと=自主的に隷従状態に置かれることを欲する傾向があることに気付いているのではないでしょうか。
その点、無目的な旅や散歩ひとつとっても、それは普段の生活システムの外へと飛び出してまなざしを反転させ、「外」からその限界だったり不足だったりを明らかにしていく決定的なきっかけとなりうるのだということを、ルソーはよく知っていたのでしょう。
6月4日にかに座から数えて「自己規律」を意味する6番目のいて座の満月に向け月が膨らんでいく今週のあなたもまた、意識を狭い範囲に囲い込みがちな制度的なまなざしの“外”へと自分の足で歩いていく機会をきちんと確保していきたいところです。
コミュニケーションのコードを外す
モンゴルには「ホーミー」という伝統的な歌唱法が今でも伝わっていて、もともとは遊牧民が家畜を呼ぶために使っていた発声が源流と言われています。1人で低音と高音、2つの音を同時に出すのが特徴で、初めは「こんな音を人間って出せるのか」と驚くばかりなのですが、次第にどこか懐かしさを感じさせる不思議な響きに引き込まれていきます。
それは人間だけに限らないようで、モンゴルでは草原で馬に乗りながらホーミーを歌うと、馬も嬉しいらしくこちらに耳を向けて聞いてくれるのだという話を、実際にモンゴルの人から聞いたことがあります。
私たちは普段、動物に話しかけることをどこか「おかしい」と感じていますし、それはどこかで会話の通じない相手には話しかけたり話を聞いたりしてはいけないというコードとなって社会のあちこちに張りめぐらされていますが、先のモンゴル人の話などを聞いていると、そうしたコードは人間が本来備えているコミュニケーションの可能性を著しく制限してしまっているのではないかと思われてきます。
今週のかに座もまた、そうして社会的に強制されたコードから自分をそっと外して、みずからの思いの伝える上での可能性を貪欲に模索してみるべし。
かに座の今週のキーワード
脱・ヒューマンスケール