かに座
秘められた交情
わが身を引き寄せる相手
今週のかに座は、『雄鹿の前吾(われ)もあらあらしき息す』(橋本多佳子)という句のごとし。すなわち、もう一人の自分と入れ替わり立ち替わりしていくような星回り。
秋の静かな夜には、金切り声のように甲高く響く鹿の鳴き声が、遠く山の方から聞こえ、その声が止むと一段と静けさがピンと張り詰めたように感じられるものですが、掲句の「鹿」はそうしたある種の生々しさが取り去られた記号的な冷たさとは対極にあります。
実際、鹿は一雄多雌で、雌(めす)を巡って雄同士で激しく争うことでも知られており、悲しげに聞こえる鳴き声の裏では、角を突き合わせて命懸けで雌を奪い合う熾烈な現実の姿があり、掲句はそこを捉えた。
そして「雄鹿」の荒々しさをわが身に引き寄せることで、おのれの中にある得体の知れない激しさを改めて発見したのではないでしょうか。あるいは、作者は自分のなかの隠れた一面がせり上がってきつつあることにどこかで感づいていたからこそ、あえて雄鹿の前に自分を立たせてみたのかも知れません。
10月3日にかに座から数えて「他者性」を意味する7番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんなもう一人の自分との交情へと突き進んでいくことになるはず。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』のイルカ
私たちは「人間は地球上で一番賢い」と無意識のうちに思い込んでいますが、もしかすると実はめちゃくちゃおバカな種族で、他の種族も口に出さないだけで日夜そう思っているのかも知れません。
ダグラス・アダムスのSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、まさにこうした感覚をひとつの物語に仕立てた傑作であり、そこには滅亡の危機が差し迫った地球の状況にいち早く気付いていたイルカたちが、脱出前に人間たちに別れを告げるシーンが登場します。
彼らの最後のメッセージは、フープをくぐり抜けながら米国国歌をハミングしつつ2回転後方宙返りを決める洗練された“芸”として誤解され、たくさんの観客に拍手と笑顔でもって迎えられるのですが、実際の内容は「さようなら、今まで魚をありがとう」というものでした。
つまり、食料供給のためにずいぶん役に立ってくれたけれど、ついに自分たちのメッセージを真剣に受け取ってくれなかったね、という訳です。果たして、この話をあなたは笑えるでしょうか?
今週のかに座もまた、そんな自分よりずっと賢い(かもしれない)イルカのような存在と人知れず交友を育んでいくべし。
かに座の今週のキーワード
イルカは地球上で2番目に賢い存在で、1番賢いのはネズミ