かに座
一回お休み
ある現代人の独白
今週のかに座は、『萩に雨こんな日もなければ困る』(中原道夫)という句のごとし。あるいは、休むべくして休んでいくような星回り。
廊下のガラス窓越しに、庭の萩でも眺めているのでしょう。萩は秋には紫色のなんとも幽遠な気配の花を咲かせ、玉見草や月見草の異名でも知られていますが、ここにはそんな萩も雨降りの休日というシチュエーションに配置されると、こうもホッとさせられるものなのかという発見があります。
そんな光景を目にして、作者もたまに家でゆっくりするのに、雨が降ったのはお誂えむきだと思い直したのかも知れません。明日のことは明日考えよう。ともすると慌ただしく年月を早送りしがちな現代人には、いやそもそも人間が人間らしく一生を送るには、「こんな日もなければ困る」のです。
そんな冒頭の歯切れのいい前五とは対照的な、句またがりで綴られた独白には、思わずうなずく人も多いのではないでしょうか。
同様に、9月10日にかに座から数えて「エッジ」を意味する9番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、前のめりに進むばかりではなく、たまには立ち止まったり、後ろをふりかえったりする時間をゆっくり確保してみるべし。
「吟行」に出かける俳人のように
吟行とは、俳句の題材を求めて景色のいい場所へ出かけて、その場で何句かを作っていくこと。よく「文は人なり」とも言いますが、例えば山や湖などの大自然に触れてそれを言葉にする際にも、私たちは自然を通して人間を、そしてあくまで自分を通して心のなかに映しだされる景色を見ていきます。
つまり、ただ名所・旧跡のような‟いい素材”を得たからといって、いい俳句ができるとは限らないのです。そのためか、吟行で作られた作品でいいなと感じるものは、大抵どこかひっそりとしていたり、あるいは、余計なこわばりのない、あっさりとした印象のものが多いように思います。
それは、人の目にどう映るかはともかく、自分としては一番ウブな気持ちになって、そういうウブな気持ちのなかにあざやかにみえた風景を17文字で切り取っているからでしょう。
そして、そういう一句を自分の作品としていく上で一番大切なことは、「平凡さを恐れない」ということなのではないでしょうか。
今週のかに座もまた、そんな「吟行」に臨んでいるつもりで過ごしていきたいところです。
かに座の今週のキーワード
奇をてらわないこと