
かに座
恬淡無碍

繰り返し押し寄せる思い
今週のかに座は、ネヴィル・シュートの『渚にて 人類最後の日』という小説のごとし。あるいは、受け入れがたい現実を淡々と受け入れていこうとしていくような星回り。
核戦争後の話で、北半球はすでに全滅し、南半球にいる主人公たちの身にもじわじわと終わりの日が近づきつつあるという設定。
状況としては今の現状よりずっと大変な事態のはずなのですが、何が何でも生き残ってやると、危機に対してバリバリ戦おうというより、滅びに向かっていく世界の歩みがごくごく自然にそこに展開されていく。
当然、ハリウッド映画のようなスペクタクルも、大々的なカタストロフもそこにはありません。すべての人類に等しく訪れるだろう終局を前に、ひとりひとりの暮らしと仕事ぶりが描かれ、それが逆に「死というものとどう折り合いをつけるのか」という問いを、繰り返される波の音のように静かに、けれど決定的な仕方で読者の心に残していくのです。
7月2日にかに座から数えて「向き合うべきもの」を意味する10番目のおひつじ座で下弦の月を迎えていくあなたもまた、そうした淡々とした描写を自身の日常に加えていくべし。
マイハッピーお葬式
ルーマニアの思想家シオランは、精神の狂熱やこの世に存在することにまつわるそこはかとない不安を鎮める方法について、次のような方法を提案していました。
「自分の葬式の情景を思い起こしてみるにかぎる。誰にでも手の届く有効な方法だ。昼日中に何度もこの手を使う羽目にならぬよう、起床したらすぐ、この方法の恩恵に浴してみるのが上策である。」
例えば、自分の墓に訪れてくれている人として真っ先に思い浮かぶ人は誰であり、自分の墓が映し出すものは何であろうかと想像してみるのもいいでしょう。
そこにあるお供えものは何であり、それは一体誰が、自分にとってのどんな関係の相手が持って来てくれたものなのか。
そうした想像のなかで、まだ解決していない問題や想像できない部分がどこにあるのか、すなわち今ここで死んでしまう訳にはいかなり理由がどこにあるのかもはっきりしてくるはずです。
かに座の今週のキーワード
渚にて





