かに座
建て前を本音が裏切る
こちらは6月14日週の占いです。6月21日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
隔靴掻痒
今週のかに座は、島尾敏雄の「夢の中の日常」の一節のごとし。あるいは、ありえない意味によって、内なる欲求が暗示されていくような星回り。
特に難しい言葉が使われている訳ではなくても、言葉の組み合わせとして不自然だったり、一読してよく意味が分からないということがあります。
私は胃の底に核のようなものが頑強に密着しているのを右手に感じた。それでそれを一所懸命にに引っぱった。すると何とした事だ。その核を頂点にして、私の肉体がずるずると引上げられて来たのだ。私はもう、やけくそで引っぱり続けた。そしてその揚句に私は足袋を裏返しにするように、私自身の身体が裏返しになってしまったことを感じた。頭のかゆさも腹痛もなくなっていた。ただ私の外観はいかのようにのっぺり、透き徹って見えた。
ここに書かれているようなことは、実際にはありえないし、また、いつかあり得るものでもないために、読んだ側も最初は不明晰な印象を受けます。ただ、次第にこうした事実としてありえない意味が、かゆさの感覚、またはかゆさに耐えかねて、それを逃れたいという欲求の暗喩になっていることが分かってくるはず。
18日にかに座から数えて「言語化」を意味する3番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、なんらかの感覚の自己表出に裏打ちされたリアリティを新たに獲得していくことがテーマとなっていくでしょう。
爆ぜる
例えば、松尾芭蕉、与謝蕪村と並んで江戸時代の三大俳人として知られる小林一茶。彼について描いた藤沢周平の『一茶』には次のような描写が出てきます。
言いたいことが、胸の中にふくらんできて堪えられなくなったと感じたのが、二、三年前だった。江戸の隅に、日日の糧に困らないほどの暮らしを立てたいという小さなのぞみのために、一茶は長い間、言いたいこともじっと胸にしまい、まわりに気を遣い、頭をさげて過ごしてきたのだ。その辛抱が、胸の中にしまっておけないほどにたまっていた。
だが、もういいだろうと一茶は不意に思ったのだ。四十を過ぎたときである。のぞみが近づいてきたわけではなかった。若いころ、少し辛抱すればじきに手に入りそうに思えたそれは、むしろかたくなに遠ざかりつつあった。それならば言わせてもらってもいいだろう、何十年も我慢してきたのだ、と一茶は思ったのである。
この時、一茶の心の中で大きく何かが爆ぜたのでしょう。そしてこれもまた、建て前を本音が裏切るということの一つのバリエーションに他なりません。今週のかに座は、そうした秘めた炎を暴発させていく機会を得ていくのかも知れません。心してください。
かに座の今週のキーワード
夢が日常を突き破る