かに座
生活を洗い流す
こちらは5月24日週の占いです。5月31日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
「たわたわたわたわす」
今週のかに座は、「夜業人に調帯たわたわたわたわす」(阿波野青畝)という句のごとし。すなわち、動きながら瞑想状態に入っていくような星回り。
昭和9年に詠まれた句。「夜業人」は“やぎょうびと”、「調帯」は“ベルト”と読む。おそらく作者自身が工場労働の夜勤に励んでいるときの経験をもとに詠まれたもの。
納期前のいつ果てるとも知れない夜業のやるせなさも、錆や油の入り混じった工場の空気を開けた窓から吹き込む夜風がいくらか爽やかなものにしてくれたり、機械のベルトが「たわたわたわたわ」動き続ける音にどこかユーモラスに感じることで乗り切っていた。
そして、機械だけでなく自分もまた「たわたわたわたわ」動き続ける何かになったような気がしたか、そのままずっと「たわたわ」し続けていたら、どうなっていただろうかと想像したのでしょう。
あるいは作者は、機械と自分とが「たわたわたわたわする」何かを通じて一体となっていた感覚をどこか懐かしんでいるのかも知れません。
26日にかに座から数えて「修行」を意味する6番目のいて座で皆既月食(満月)を迎えていく今週のあなたもまた、必ずしもクリエイティブでない環境のなかで自分なりの創造性を追求していくべし。
高良留美子の「海鳴り」
女性の生理現象も、うんざりする仕方で語ろうとすればどこまでもそうすることができてしまうものですが、逆にどこまでも涼しく高い次元で語ろうとすれば、こうなるのかと思わせてくれるのがこの「海鳴り」という詩です。
ふたつの乳房に/静かに漲ってくるものがあるとき/わたしは遠くに/かすかな海鳴りの音を聴く。
月の力に引き寄せられて/地球の裏側から満ちてくる海/その繰り返す波に/わたしの砂地は洗われつづける。
そうやって いつまでも/わたしは待つ/夫や子どもたちが駈けてきて/世界の夢の渚で遊ぶのを。(詩集『見えない地面の上で』)
男性よりも、より自然に近い女性のからだのリズムは、小さな子宮をこえて、茫漠とした広がりを持っている。女性にとっては嫌悪の対象でしかない月の満ち欠けにも、作者のように深い体験を加ええるのだと知れば、感じ方もまた変貌していくのかも知れません。
今週のかに座もまた、この詩を書いた彼女のように、生活の一コマ一コマをまるで新品のように洗い出し、輝かせていくことができるかも知れません。
今週のキーワード
習慣の洗濯