かに座
生き延びるための音楽
不意に浮かび上がってくるもの
今週のかに座は、「春草に野はまろし白き道を載せ」(池内友次郎)という句のごとし。あるいは、これでもかと主観をほとばしらせていくような星回り。
詠まれた素材は、春の野道を扱ったごくありふれたもの。けれど、この一句には弾むような作者のこころが宿っているように感じられます。
「野はまろし」とあるように、野原を丸いものと感じた作者の感性は、さらに畳みかけるかのように「白き道を載せ」と続きます。丸い野原が白い道を載せているというのは、作者がそこに一つの完全なる世界の現われを見て取ったということでしょう。
作者は俳句を事業とした文芸界の大立て者・高浜虚子の次男で、日本で最初にパリ音楽院に留学して作曲を学んだ音楽家でもあり、そうすると掲句に描き出された情景もまるで無の底から不意に浮かび上がってきた音符記号のようにも思えてきます。
きっと、掲句を詠んだ作者の頭の中にはこれまでにはなかった新しい音楽が鳴り響いていたのではないでしょうか。
27日にかに座から数えて「創造性」を意味する5番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、たとえ周りから理解されなくても、自分なりにいいと感じた音を音楽へと昇華させていきたいところです。
命綱をこしらえる
ただし一口に音楽といっても、かに座にとってのそれは、軽快なポップミュージックのようにさらりと流れていくものではなく、それがあるかないかで自分という存在が変わってしまうような命綱(いのちづな)や生命線と言ってもいい、決定的な意味を持ちます。
ただ、だからこそ簡単には成立しないし、本当に成立するのかさえ分からない。何十回、何百回と紙の上に線や声をのせてなぞっていくことで、ようやく小さな声やひっかかりのようなものを感じて、そこから詩が始まっていくように。
「きみが境界線を生きるとき
人々はきみの中を通過していく 風がきみの声を奪う
きみは雌ロバ 去勢牛 犠牲の山羊(スケープゴート)
新しい人種を告げる者
半分と半分―女であり男でありいずれでもない―
新しい性
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ボーダーラインで生きのびるためには
きみは境界なく生きなくてはならない
十字路になりなさい」
(グロリア・アンサルドゥーア、『ボーダーランズ/ラ・フロンテーラ』)
今週のキーワード
十字路になっていく