かに座
永遠に身を浸す
不思議な力の訪れ
今週のかに座は、「鶯の手もと休めむながしもと」(河合智月)という句のごとし。あるいは、みずからに特別な休息を与えていこうとするような星回り。
作者は江戸時代初期の女流俳人で、大津の荷問屋の妻でもあった人。「ながしもと」というのは、台所の流し場のあるあたりのことで、炊事やらをしていたら不意に鶯の鳴き声が聞こえてきたのでしょう。
「休めむ」は「休もう」という意志を伴う動詞の終止形で、ごくさりげない言い方ではありますが、現代社会において鶯の声が聞こえてきたからといって仕事の中断を決断できる人が一体どれくらいいるでしょうか。
彼女の生きていた時代には、決められた通りに仕事を少しでも進めることよりも、春という新しい季節の到来に心を傾けることの方がずっと大切なこととされていたのかも知れません。
それは季節というものは放っておいても自動的に変わってくれるものとしては考えられておらず、世界の外側から訪れる不思議な力の訪れ(霊威)として受け止められるもので、特にその初物(ここでは鶯の声)にあずかることはとても縁起がよいこととされていたのです。
3月6日にかに座から数えて「業務の遂行」を意味する6番目のいて座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、いつもより少し仕事のペースを落としたり、生活内のストレスやノイズを減らしていくことがテーマとなってきそうです。
喪失と永遠のはざま
心から貴重だと思えるものが、同時にひどく傷つきやすいものであるということは、一般的なイメージとは異なり、実際には本当にいいことであるように思います。
例えば、傷つき、失われゆくということこそが、生存していることの一番のしるしであり、美しいものを美しいと思える感受性を育んでくれるから。
そして、そういうことに気付くためにも、やはり感性を使って生きていこうとする人には孤独な時間が必要なのです。
この世という仮の宿には、行くも帰るもひとりなのだということを今週は改めて感じていくことでしょう。
しかし、それはただ寂しい現実としてそうなのではなく、永遠なるものを受けとっていくための契機であり、今またあなたにはそうした感覚を思い出すチャンスが訪れているのだと知ってください。
今週のキーワード
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。