かに座
ひびきとコトバ
※2021年3月1日~3月7日の週間占いは、公開を延期とさせていただきます。(2021年2月28日追記)
宇宙的な声の躍動
今週のかに座は、「籟」という言葉のごとし。あるいは、日常の水平的なコミュニケーションとは異なる垂直的なコミュニケーションと関わり合っていくような星回り。
「籟(らい)」とは風がものにあたって発する音のことであり、その響きのこと。古代中国の『荘子』には「天籟」「地籟」「人籟」という表現が出てきますが、これは地上の風穴や楽器の響きがコトバになるということですが、「天籟」に関しては哲学者の井筒俊彦が次のように述べています。
人間の耳にこそ聞こえないけれども、ある不思議な声が、声ならざる声、音なき声が、虚空を吹きわたり、宇宙を貫流している。この宇宙的な声、あるいは宇宙的コトバのエネルギーは、確かに生き生きと躍動してそこにあるのに、それが人間の耳には聞こえない。(「言語哲学としての真言」)
籟という声ならざる「声」は、確かに人間の耳には聞こえないけれど、胸には届く。そして胸が痛み、張り裂け、あるいは、心の琴線に触れる、と私たちは言う。その時、私たちは図らずも「天籟」のひびきと重なりあって、自他の区別をこえたところにある調和の世界に入っていくのです。
27日にかに座から数えて「言葉」を意味する3番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな耳には聞こえない不思議な声とみずからのひびきが重なりあっていく瞬間を見逃さないようにしていきましょう。
呼吸するも一つの快楽
かつて西田幾多郎は「かかる世に何を以て楽しみとして生きるか」という自問に「呼吸するも一つの快楽なり」と答えたそうですが、現代人のほとんどは「過換気症」的な状態にあると言われ、これは過度なストレスで身体が興奮状態にあるときに息を吸い過ぎて苦しくなってしまうといういわゆる過呼吸状態に近いものです。
気分的には何かに追われている、慌てている感じで、つねに何かをしていなければならないという強迫的な焦りや不安やイライラを抱えており、何か特別な問題に直面していなくても、身体の状態そのものが不安やイライラに陥りやすい状態にある。はっきり自覚できればまだいい方で、多くの人ははっきりした自覚もなくそういう状態にあります。
これは近代に欧米で発達し称揚されてきた科学的合理主義やその成果としてのテクノロジーといったものが、精神と身体をつなぐ半自覚的な営みである呼吸を完全に抑圧・忘却することによって深まりや広まりを獲得してきたことの反動でもあり、特に明治以降「科学教」とさえ言えるほどにそうした欧米の姿勢を後追いで取り込んできた日本では、すっかり「天籟」を忘れてしまうほどの決定的かつ致命的な身体の崩壊を招いてしまった訳です。
垂直軸でのスケール感を取り戻そうとしている今週のかに座にとって、西洋的な合理主義を乗り越えようと、哲学の立場から全身全霊で取り組んだ日本人の一人である西田幾多郎の言葉は、十二分に立ち返る価値のある言葉として感じられてくるはず。
今週のキーワード
純粋快楽