かに座
道の繋がり
これから歩く道は昨日歩いた道かもしれない
今週のかに座は、「深雪道来し方行方相似たり」(中村草田男)という句のごとし。あるいは、未知のさなかで既視感を感じていくような星回り。
しんしんと雪が降り積もっている、そんな白一色の道を行く気持ちを詠んだ句。
行けども行けども同じような眺め、これまで歩いてきた道も、これから行く未知の先も、そこには決定的な変化は見られず、むしろ何の代わり映えもないようにさえ思える。
これは実景の描写でもある一方で、人生の来し方行く末にも大きくかかってくるものでもあるのでしょう。2021年、年明け現在の自己を岐点として、ともに永遠に向かって走っていくところの過去と未来を眺めつつ、ぽつりと口をついて出た言葉としての「来し方行方相似たり」。
かつてニーチェは『ツァラトゥストラはかく語りき』で「真っ直ぐな道があるなどと思うのは誤りだ、真理はすべて曲線を描いている、時間そのものが円環なのだ」と書きましたが、掲句の「来し方行方相似たり」という言葉もそんなニーチェ的な永劫回帰の思想を多分に含むものとして受け取って然るべきように思います。
6日にかに座から数えて「記憶と想起」を意味する4番目のてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ノイズや雑音の一切が届かない心の奥深いところから、何かしら大切なことを思い出していくことができるかも知れません。
外から自分を見つめていく
人間は「我」を消滅させまいとして、さまざまなことを行います。銅像を建てる人もいれば、本を書く人もいるし、名を残すために善行を積んだり、逆に悪名を轟かす人もいるわけですが、そろいもそろって消滅することを恐れている訳です。
死ぬということは決してそう厭なばかりではないけれど、自分の消滅ということはみんな嫌なんです。ただ、それが嫌というだけで生きていると、今度は自分が生きているうちにすべきものが見えなくなっていく。これもまた、緩慢な消滅と言うべきでしょう。
「禊ぎ」というのも、生きているうちにすべきことを明確にするためなのかも知れません。自分が生きている、その“内”実を“外”から見つめ直すための通過儀礼であり、だとすれば、やはりその道は往くも還るもただひとりでゆくべき深雪道なのではないでしょうか。
今週は、何かしら身辺整理をするつもりで過ごしていくこと。
今週のキーワード
真理はすべて曲線を描いている