かに座
自由な行き来を楽しんで
詩魂のゆらめき
今週のかに座は、「草の香の秋の昼寝となりにけり」(星野繭)という句のごとし。あるいは、長いあいだ忘れていたものを思い出していくような星回り。
一口に「草」といっても、むせかえるような夏草もあれば風に吹かれ転がる枯れ草もありますが、掲句の「草の香」とは秋、さまざまな草が実を結ぶころの香りのこと。
ごろんと昼寝をしていると、夏のむっとするような臭いとも、冬の動物の毛のような臭いとも違う、しっとりとしていながらも爽やかな香りがして、あ、草の香りだと気付いたのでしょう。なんとなく心の奥行きがスーッと広がっていく時のような、その独特の感覚は他の季節にはない透明な新鮮さで存在の根底から清めてくれるようでもあります。
作者は農家の夫を支える主婦とのことで、一見するとよき嫁、よき母、としての平凡な生活詠に見えるものの、そういう境遇にありながら自身の句集まで刊行するほどに俳句へと駆り立ててしまうものは、決して“平凡”ではないはずです。
それは読者が立っているところからは見えない位置で、静かに、けれどありありと働いている彼女の詩魂であり、そこに自然と耳を澄ますよう促すような構えを、掲句は確かに持っている。
17日にかに座から数えて「生き生きとした交流」を意味する3番目のおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自然と自分が鋭敏になっていかざるを得ないような誰か何かと向き合っていく中で、初心に返っていくことがテーマとなっていくでしょう。
暗渠のふたを開けてみよう
昔の江戸、大阪なんかは縦横無尽に水路が走っていたものですが、明治時代はいろいろな意味でそうした捉えどころのない流動的なものに蓋をし、暗渠(あんきょ)にして埋め立てられていきました。
時おり柵をこえて暗渠を冒険したり肝試しに繰り出す若者などもいるかも知れませんが、ふつうに生きて歩いている限りまず足を踏み入れることはないでしょう。
ただ、そうして平地的に生きていると、どうしても記号やお金などの近代的なシステムで動いているものを、自分のなかに固定させることが生きていくということになりがちなのですが、作者はおそらく普段は閉ざされていた通路から流れ出てきたものを感じたのではないでしょうか。
「昼寝」という何気ない日常の仕草に差し込んだ「草の香」のように、今週のかに座もまた普段なら蓋(ふた)をしている潜在的な現実のレイヤーで何かが揺れ動いていくことになるでしょう。
今週のキーワード
しっとり爽やかな香り