かに座
不思議に生かされる道を
逆説としての粘菌
今週のかに座は、生きているのか死んでいるのか分からない粘菌のごとし。あるいは、自然に生死の流れへとみずからを開くことで、運命ということを俯瞰していくような星回り。
粘菌と言えば、天才的な博物学者・民俗学者であった南方熊楠が半生をかけて研究をしたことで知られる、植物にも動物にも属さない原生生物(ゾウリムシやアメーバ)に分類される生き物。
熊楠に関する著作で著名な鶴見和子によれば、熊楠が粘菌を研究するようになったのは、生命の原初形態や生き死にの本質についてのヒントが得られるかも知れないということが動機にあったのだそうです。
実際、粘菌が変形体としてある時、人間の目からはまるで吐き出したガムのようなつまらない半流動体のように見えますが、微生物などを捕食して成長する動物のような状態にあり、やがて栄養補充が困難になると、今度は全体が湧き上がって胞子状になります。
この時、人間の目からはキノコのように見えるため、「粘菌が生えた」ということになる訳ですが、変形体としてこの時に死んでおり、胞子がはじけて種子のように地上に飛散し、それが時を経るとまた変形体となって活動を開始するのです。
つまり、人間の側からは生に見える状態は粘菌にとって死であり、人間の側から見た死が粘菌にとっては生に他ならない。そんな逆説が現に生き物として存在しているんですね。
11日から12日にかけて、かに座から数えて「革新的運動」を意味する11番目のおうし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、「食うために働く」といった人間的な理屈を少しでもひっくり返していくことで、運命に翻弄されるのではなく不思議に生かされる道をたどっていくことがテーマとなっていくでしょう。
おのれのロクデナシさ加減を知る
何かを書いたり、熱心に話したりするということは、そこに言葉が介在するかぎり、その人の一番奥の方に巣くっている生霊(いきすだま)を放ってしまうということであり、普段自分でも忘れている生への恐れや、うわべでは上手に隠している悪の部分を解き放っていくということでもあります。
したがって、人を傷つけもすれば、みずからも血を流す行為であり、考えれば考えるほどすれすれの振る舞いです。しかもそれを何かしら「芸」として売り出すようなあざとい真似をしている者なら、皆すべからくロクデナシと決まっています。
けれど、そんな業さらしな真似をせずにはいられないのも人間の本性であって、どれだけ嫌気が差そうと毒気にまみれようと、いったんそういう行為に加担してしまえば、もはや元には戻れずのめり込むばかりで、それらの営みと共に生死を超えて往くしかないのです。
今週は、普段自分のしでかしていることの恐ろしさとむごさを抱えながら、それでも誰かに向けて何かしらを発信していく自分の姿をよく見つめていくといいでしょう。
今週のキーワード
いっそ大妖怪になる