かに座
石ころころころ
星と石
今週のかに座は、宇宙を流れそこねて地に落ちた星のごとし。あるいは、雄弁と沈黙のはざまで物思う石のごとくただそこに在ろうとするような星回り。
ロジェ・カイヨワが生前最後に残した著書であり、ギリシアの川神に託して自らの思想の遍歴を語った『アルペイオスの流れ』には次のような記述が出てきます。
私は石が、その冷やかな、永遠の塊りの中に、物質に可能な変容の総体を、何ものも、感受性、知性、想像力さえも排除することなく含みもっていることに気づきつつあった。
と同時に、絶対的な啞者である石は私には、書物を蔑視し、時間を超えるひとつの伝言を差し出しているように思われるのだった。
占星術では人間の中に星を読みますが、時にこうした「石」が読み取れる時があります。
いかなるテキストももたず、何ひとつ読むべきものも与えてくれぬ、至高の古文書、石よ……(同書)
すなわち、人はときどき自身の中に「密やかな言葉」という名前の驚くべき沈黙を見出し、その前にひれ伏すのでも踏みつけるのでもなく、ただそばに在っておのずから語り始めるのを待たなければいけない状況に直面するのです。
14日にかに座から数えて「向き合うべきもの」を意味する7番目のやぎ座にある木星・冥王星に改めて焦点があたっていく今週のあなたもまた、すぐに意味が分からない出来事や相手に対して慎重かつ粘り強く関わってみるべきでしょう。
たて糸によこ糸を通していく
起こった瞬間においては、その価値や意味が分からない出来事というのは確かにある。それは人の心の奥深くに入り込み、長い時間をかけてかたちをなし、再び意識の表面に浮上してきたところで、ようやくすくい取られていくのです。
それは誰かに言われた言葉だったり、目にした光景だったり、あるいはあるひとりの人物の影響そのものだったりと人によってまちまちですが、私たちのこころには大抵はどこかでそういうものが2、3ひっかかっていては、すくい取られる瞬間を待っているのではないでしょうか。
例えば須賀敦子の文章はどこか、そんなかすかな記憶の底からそっとすくい取られたようにして綴られていますが、例えば下記の箇所などは今週のかに座の人たちがなすべきことを簡潔に暗示しているように思います。
「線路に沿ってつなげる」という縦糸は、それ自体、ものがたる人間にとって不可欠だ。だが同時に、それだけでは、いい物語は成立しない。
いろいろ異質な要素を、となり町の山車のようにそのなかに招きいれて物語を人間化しなければならない。
今週のキーワード
線路に沿って石けりを