かに座
感覚の創造
アースと繋がる
今週のかに座は、村田沙耶香の小説『ハコブネ』の登場人物・知佳子のごとし。あるいは、制度化された性別や恋愛の“外”に広がる可能性の世界を志向していくような星回り。
「人である以前に星の欠片である感覚が強い」知佳子にとって、他の人たちは「永遠に続くおままごと」のような「共有幻想の世界」に生きており、そのルールの最たるものが「性別」。彼女は「その外にいくらでも世界は広がっているのに、どうして苦しみながらそこに留まり続けるのだろう」と考え、性別を二元論で考え過ぎる他の登場人物に対しては「力が入りすぎるとね、身体もほどけないんだよ」と言葉をかけたりしています。
そして祖父から聞いた宇宙の話に基づき、太陽を「ソル」、地球を「アース」と呼んでいた知佳子は、肉体感覚ではなく「星としての物体感覚」を追求するうちに、やがて「物体として、アースと強い物体感覚で繋がる」という発想を思いつき、「ヒトであることを脱ぎ捨て」る道へと一気に進んでいきます。
知佳子が本当に記号としての性別から完全に脱しえたのかはともかくとして、少なくとも新しい感覚を探求する企てとしては興味深いものがあるのではないでしょうか。
7月5日にかに座から数えて「希求すべきパートナーシップ」を意味する7番目のやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、<ここ>にはない何かを強く想像することを通じて、<ここ>を生きていくための手がかりを改めて見出していくことがテーマとなっていくでしょう。
<私>を再構築する
批評家の安藤礼二は、江戸川乱歩は作品を書くことによって「女」になろうとしていたし、そのために「私」を徹底的に分断して、自らの想像力のみを駆使してまったく新しい理想の「女」として再構築していったのではないか、と指摘しています。いわく、
女になること。その場合の女とは、肉体的な現実をもった女ではない。乱歩の「女」とは、生物学的な「差異」でも、制度的な「差異」でもない。逆にその「女」はさまざまな「差異」を生み出す地平、絶対的な「官能性」とでも名づけるほかない領域に存在する。それは森羅万象のすべてを官能として受容する純粋な感覚世界の新たな想像であり、その感覚の全面的な解放である。(安藤礼二、「鏡を通り抜けて 江戸川乱歩『陰獣』論」)
乱歩ほど徹底的に実行できるかはさておき、今週のかに座の星回りからも、「私」を再構築することへの鬼気迫る情熱のようなものを感じてなりません。
自分は自分が救われるために、一体何を望んでいるのか。その夢想の根底へと一歩ずつ、しかし着実に歩を進めていくことです。
今週のキーワード
感覚の解放