かに座
道なき道を進むため
ふ頭にて
今週のかに座は、サミュエル・ベケットの<部屋ごもり期>のごとし。あるいは、未知の世界に飛び込んでいくための勇気を奮い起こしていくような星回り。
アイルランド人の作家ベケットは、40歳になろうかという1946年頃、集中的な創作活動期に入り、それから数年のあいだに代表作『ゴドーを待ちながら』を含めた彼の業績の中でも最も優れた作品群を書き上げました。
彼はその時期の大半を自室で過ごし、ひたすらおのれの内なる悪魔と向きあい、みずからの心の動きを探ろうとしたのだそうです。どうして彼はそうした特殊な生活を始めたのか。彼の評伝によれば、それはあるときふとひらめいて始まったのだと言います。
深夜にダブリンの港近くを散歩していた時、自分が冬の嵐のさなかに、ふ頭の端に立っていることに彼は気付いた。そして、吹きすさぶ風と荒れ狂う水にはさまれて、とつぜん次の事実を悟った。
自分がそれまでの人生や創作で必死に抑え込もうとしていた暗闇は、自分の目標とも一致せず、実際まるで注目されることもなかったけれど、実はそれこそが創造的インスピレーションの源なのだ、と。
2月2日(日)にかに座から数えて「遠くの希望」を意味する11番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、これまで抑え込んできた魂の暗い側面こそが自分の最も優れた側面なのだということを受け入れていくことが、大きなテーマとなっていきそうです。
徒歩なりの思考
昔の人はとにかくよく歩いたと言います。
個人的にも、子供の頃に親戚のおばさんの家へ遊びに行った際、ちょっとそこまで花火を見に行こうと言われ気軽な気持ちで付いていったら、なんだかんだとふたつの山を越えさせられて、花火を見る頃にはすっかりくたくたになってしまった思い出があります。
おそらく、地図の上で考えれば、実際そんなに大した距離ではなかったのだと思います。ただ、子供の頃の自分にとってはとてつもない旅であり、山を越えるたびに世界がどんどん変わっていったのをよく覚えています。
それはおそらく、場所から場所への距離感は同じでも、電車やバスや自動車の速度で物事を感じたり考えたりするのが当たり前になってしまった現在の私たちには見えてこない風景なのでしょう。
今週のかに座は、徒歩には徒歩なりの思考があるということを、どうか思い出してみて下さい。そして普段とは異なる速度で何かを考えてみることで、「迅速性」や「効率」といった価値観からこぼれ落ちていたものが不意に目に飛び込んでくるはず。
そしてそれは必ずや、あなたの背中を押してくれる推進力となってくれるでしょう。
今週のキーワード
たましいの夜の航海