かに座
再構築に必要な手続き
或る荒療治の話
今週のかに座の星回りは、キジ・ジョンソンの『スパー』というのSF短編のごとし(『霧に橋を架ける』所収)。あるいは、失われた生の実感を取り戻していこうとするような星回り。
宇宙船が航行中に正体不明の船とぶつかって、相手側の救命艇のなかで、粘液に覆われた不定形のエイリアンと一対一となって絡み合い、体中の穴という穴から侵入を繰り返され、突っ込んだり突っ込まれたりし続けるというとんでもない作品。
ただ、そこには不思議に酩酊感があって、日々、生きている実感が摩耗しているような今の社会にあって、こうした得体の知れないリアリティーと触れ合う中にこそ、真の意味での生きた実感が潜んでいるのではないかという気さえしてくる訳です。
主人公の女性は抵抗したり、言葉を教えることで難を逃れようとしたり、この行為はもうしかして性交ではなくて、何らかの意思疎通なのかもしれないと推測したりします。
ですが、その間もインとアウトの律動はひたすら続いたまま。そんなエイリアンとの行為は、女が失った過去を「思い出すこと」と「忘れること」の反復行為ともなり、いつしか現実と回想、そして目的と手段はその境界を失って渾然一体となっていき、エイリアンと女はついに分かちがたい存在へと変貌したを暗示するような一文で、話は終わります。
妄想であれ現実であれ、今週のかに座もまた、そうした格闘技における「スパーリング」にも通じる生々しい手応えや拠り所を少なからず欲していくでしょう。
自分の知の在り方を問う
異文化の研究をするようになった経緯や実感などを研究者の方にする時など、私たちはしばしば「共通点」を軸にそれを聞いていこうとする傾向があるように思います。
例えば、ユダヤ教の研究者に、なぜユダヤ教を研究するのか、研究した結果何が見えてきたのか、といったことを聞いていくとき、無意識のうちに研究者自身のバックグラウンドとユダヤ教との連続性や、日本の世界観とユダヤ教のそれとの共通点を聞き出そうとするものです。
ただ、もしあなたが実際にそうした傾向があるとしたら、今週はそこで立ち止まらなければなりません。バックグラウンドがまるで異なるからこそ研究するのだ、「知」というのは元来そういうものだ、と。
無意識のうちに依拠している信条や価値観を相対的に捉え直していくためにも、そういう知の在り方が今のあなたには必要になってきているのではないでしょうか。
今週のキーワード
不思議な酩酊感