かに座
自由になる準備
頭の中を鳥葬せよ!
今週のかに座は「鳥葬の人肉きざむ秋の山」(角川春樹)という句のごとし。あるいは、他人も自分も嫌がるような事実を見ることによって、自身の眼差しを鍛えていくような星回り。
ジョキジョキっていう音が聞こえてくるかのような一句。
作者が実際にチベットを訪れた際にできた句ですが、普通の俳人だったら「人肉きざむ」なんて言葉はまず選ばないでしょう。それを、あえて選んでみせたところに作者の凄味というか覚悟のようなものを感じます。
つまり、ただ目を背けずに「見る」という行為そのものが、詩になっていくようなぎりぎりのところを攻めているんですね。
5・7・5というのは、しょせん器です。
だから句を詠むという行為は、本来ならとても抑制し切り詰めることなんてできない思いを、どうやって器の中に留めておこうかという不可能な試みであり、そこを攻める限りにおいてまったくの自由なのです。
今週のあなたもまた、あえての言葉を選んだ作者のように、ただひたすらに見るべきものを見ていくことによって、次第に頭の中を鳥葬のごとく自由に解き放っていくことができるはず。
自然をまねる
シンボリズムの世界で‟鳥”というのは精霊の象徴ですが、もしかしたら自然の精霊というのは、人間のそれよりもずっと大きいのかもしれませんね。
異教徒から古代キリスト教会最大の教父となったアウグスティヌスは、自身の魂の苦闘の歴史を振り返った『告白』という著書の中で「自然の風景を見ているときに記憶が大きく動くのだ」といった趣旨のことを述べていました。
いわく
「人々は外に出かけていき、山の高い頂、海の巨大な波、河の広大な流れ、広漠たる海原、星辰の運行などに驚嘆します。しかし自分自身のことは置き去りにしています」
と。
自然はみな、人間の見ていないところで労苦を重ねることで、巨大化してきました。そして人はその巨大さに思わず圧倒されつつも、自分にもまた彼らと同じような霊的働きをまねようとする衝動が湧いてくるのを感じていきます。
それは自分が強固なエゴを持ち、社会の中で認められたいという承認欲求を持った人間であることを一瞬でも忘れ、より古い存在感覚を思い出す瞬間でもあるのでしょう。
今週はそんな記憶の感覚を手がかりに、ひそやかな試みを開始していく。そんな道ゆきも出てくることと思います。
今週のキーワード
ギリギリでいつも生きていたいからさぁ