かに座
<私>の拡張
秋の道はどこへ通じているか
今週のかに座は、「寝ておれば家のなかまで秋の道」(酒井弘司)という句のごとし。あるいは、自らが獲得しうる交わりと広がりとを、どこか冷静に見つめていくような星回り。
収穫期である秋は「あきない(商い)」と通じ、昔から人々の行き交いが活発化する季節であり、それこそ数えきれない数の人がそれぞれの道を歩いてきた時期でもありました。
掲句は、すっかり長くなってきた夜に寝つけず、じっと寂寥感をつのらせていった人が、そんな季節と一体化してしまったような浸透感を見事に詠みあげています。
人は家を建て、外部の自然と断絶することでひとときの安寧を囲ってきましたが、それが次第に(特に都会などでは)命取りなディスコミュニケーションへと繋がっていき、やり切れないほどの孤独へとみずからを追い込むようになってしまいました。
ただ、たとえ表層的な現実レベルではそうだとしても、一歩でもその奥深くに分け入っていくならば、孤独な個人が寝ているその場所は、古くから誰とも知れぬ人たちが歩いてきた路傍に他ならず、あるいは道の真ん中であったかも知れない訳です。
黙って寝ていても、人々の行き交う道に通じる。今週はどうかそんなつもりで、人間関係の広がりや交わりを自分の中におさめていくといいでしょう。
昼寝あとの浮遊感
掲句を昼の想定で改めて鑑賞してみると、夜とはまた違った印象が浮かんできます。
あの昼寝から醒めた後の、なんともいえない不思議で静かな感じを抱いた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
あたりがしんとしていて、何の音もしない。まるで天地の間に我一人だけが在り、この宇宙の中に自分だけポツーンと置かれているような幽閑とした浮遊感。
そしてしばらくすると、家の外からかすかに聞こえてくるリズミカルな物音が聞こえてきて、少しホッとするのと同時に、あの不思議な感じは煙のようにどこかへ消えてしまう。
今週は、そんなふうに独り天地と一体化する感覚の中で、日常の束縛からふっと逃れ出ていくことができるでしょう。
今週のキーワード
ニュートラルな視点