かに座
魔と狂
死にもの狂ひで
今週のかに座は「千の蟲鳴く一匹の狂ひ鳴き」(三橋鷹女)という句のごとし。あるいは、理性や分別を振り切って、おのれの情念を花咲かせていくような星回り。
千匹の虫が同じ調子でいっせいに鳴きしきる声の饗宴の最中で、他に和せず激しく狂い鳴く一匹のコオロギ。
王様は裸だと言った少年の純朴ともまた違う、どこか異様なまでの情念と鬼気迫る鳴きざまを感じさせるのは、作者が女性だからだろうか。
精神的に追い詰められた状況に置かれたとき、男はただ死ぬばかりだが、女性は仏にもなれば、鬼にもなる。それは女性というのが男よりもずっとルナティックな存在で、つまりは自然に近いからなのかもしれない。
そんな自然への接近の結果、思わず声が上がったり、何がしか確信めいた考えが口をついて出たりということもあるだろう。
今週のあなたもまた、もっともらしい理屈や口実など脇に置いて、ただ自らの生理のままに発したい声を発し、口に出したい言葉を出していけばそれで情念の花を咲かせていくには十分であるはず。
魅力の重さ
「近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまうという話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。」(坂口安吾、『桜の森の満開の下』)
ここで言わんとしているのは、魅力には重さがあるということです。
器量がよくても、それなりの服装をしていても、なんだか魅力がない、というのは総じて「軽い」ということなのかもしれません。
つまり、桜の花が魅力的なのはそれだけ「重い」ということで、それは桜の木の下に埋まっているものの重さなんだと思います。
自分がかつて失ったもの、殺したもの、沈めたもの、愛したもの、どこかに忘れてきたもの。そういう失意の積み重ねの上で、あなたはあなたらしく、重さを重ねていく。
そんな自分の今この瞬間に発揮できる魅力を、残すことなく絞り出していってください。
今週のキーワード
女の魔性