おひつじ座
空気の研究
相互浸透的な働きとしての「空気」
今週のおひつじ座は、古代ギリシャの哲学者アナクシメネスのごとし。あるいは、「この世界を呼吸すること」をみずから実践していこうとするような星回り。
いわゆる自然哲学者の系譜に連なるアナクシメネスは、万物を総合的かつ統一的に理解するための出発点を「空気」に求めました(廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』)。
この空気は、希薄さと濃密さによってその在り方を異にする。それは、希薄になると火になるが、濃密になると風になり、さらに濃密になると水になり、それから地、石となる。その他のものはすべてこれらのものから生ずる。
空気である私たちの魂が、私たちをしっかり掌握しているのと同じように、気息と空気が宇宙全体(自然万有)を包み囲んでいる。
つまり、「火、風、水、地」などエレメント(四大元素)の離合から生まれてくる万物の「元のもの」としての空気は、ものみなに命を与える生命原理としての「魂(プシュケ)」であるばかりでなく、この空気=気息(呼吸)が小宇宙としての人間を「しっかり掌握する」とともに、宇宙全体を「包み囲んでいる」といると。言い換えれば、アナクシメネスは呼吸というある種の知的操作を通じて人間および宇宙に秩序と規則性を与えているのだと考えていたのです。
ここにはすでに大宇宙と小宇宙の照応の思想を認めることができますが、そのすべての鍵を握っているのは「空気としての魂」であり、アナクシメネスにとってコスモロジーとは呼吸学に他ならず、「世界を知る」とは机上で知識を得たり空想したりすることではなく、「世界を(物理的・精神的に)呼吸すること」を意味していたのではないでしょうか。
12月1日におひつじ座から数えて「探求」を意味する9番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、物事をやたらと分類・区別して切り刻んだり、対立的に捉えて満足してしまうのではなく、どうしたら一見すると分離・分断していると思われるものを結びつけ、再結集させられるかをこそ追求していきたいところです。
「空気」の再構築への参与
ここのところ、人間の活動が地球に地質学的なレベルの影響を与えていることを表す「人新世」という言葉をよく耳にするようになりましたが、それを受けて現代の哲学者コッチャは「数百万年もの昔、動物的生命の可能性の条件を産み出し、世界を変容させたのは、他ならぬ植物だった」と前置きした上で次のように述べています。
「植物新世」こそが、世界が混合であること、そして世界のあらゆる存在は、世界がその存在の中にあるのと同じだけの強さをもって世界の内にあるということの、最も明確な証左なのである。(『植物の生の哲学』)
ここで言う「混合」とは、あらゆるものが相互に浸透し合い、循環し、伝達しあっているという世界像の端的な表現であり、そこには時に私たちがプライベートや私有地という仕方で想像する空間的な不可入性はじつは幻想に過ぎないのだという警鐘も含んでいます。
人新世という概念は、世界の実在それ自体を定義づけるものを、単一の営為、歴史的で否定的な営為へと変形してしまう。つまり自然を文化例外に、また人間を自然外の原因にしてしまうのだ。その概念は、とりわけ世界が常に生物の呼吸の現実をなしている事実を、顧みようとしない。(同上)
今週のおひつじ座もまた、自然と人間、男と女、内と外、過去と未来など、あらゆる境界線を越えた、少しでも息のしやすい「混合」に参与していくつもりで、自分の考えを広げてみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
現実の基盤としての呼吸