おひつじ座
幸福の必要条件
私たちはいかに繋がっていくべきか
今週のおひつじ座は、たとえ“パーソナリティ格付け”が下がろうとも、トルストイの著作に手をのばすレニーのごとし。あるいは、人生の優先順位を他者や世間から自分自身へと取り戻していこうとするような星回り。
ディストピア系恋愛小説『スーパー・サッド・トゥルー・ラブ・ストーリー』は、アメリカが経済破綻寸前で一党独裁による軍事化が進んだ近未来世界を舞台に、誰もが信用度や性的魅力を数値化され、手元の端末で簡単にプロフィールを検索されることが当り前となった世の中において、時代に逆行して紙の本を愛するロシア出身のユダヤ系移民である“時代錯誤おじさん”こと39歳のレニーが、24歳の韓国人女子学生ユーニスに一目ぼれすることからストーリーが始まります。
この小説世界は文学が衰退したポスト文学社会であり、個人のクレジットカードの履歴やSNS上の人気ランキングからおすすめ買い物情報や友人のホットなゴシップなどが絶えずデジタルデバイスから提供され続ける一方で、自分の感情を知るにも<エモート・パッド>という感情測定器を胸にあてなければ分からなくなっているという有り様。さらに内乱状態になってインターネットが落ちてしまい、繋がらなくなったスマホを握りしめた若者たちが次々と自殺してしまうなど、随所に無惨な戯画的描写がちりばめられています。
自分と家族のしあわせを願ってあがくユーニスは、未来への不安が高まるにつれ、自分でも驚くことに“魅力最低ランク”のはずのレニーにいつも安らぎを感じていくのですが、そんなユーニスに限らず、本作を読んだ人は改めて“印刷・製本された更新されることのないメディア製品”に手を伸ばしたり、紙の日記を付けたくなってくることは間違いないでしょう。
過剰にテクノロジーが進歩していけば、どこかで人間がそれに追いつかなくなって機能不全に陥る危険をはらんでしまうもの。2月14日におひつじ座から数えて「社会的望み」を意味する11番目のみずがめ座で火星と冥王星とが重なって「生存戦争」が強調されていく今週のあなたもまた、加速する時代の流れや世間の空気に抗ってでも、他ならぬ自分のための幸福ということについて考えていきたいところです。
生命力を解き放つ
年甲斐もなくユーニスを好きになってしまったレニー然り、なぜ人は傷つくことがあってなお、誰かを愛そうとするのでしょうか。あるいは、ひどく批判されることがあっても、なぜ自身の気持ちを表現することをやめられないのか。
それは、生きていくモチベーションを自分ひとりだけで持ち続けるのは困難だから、という理由に尽きます。そう、ややこしいことはさておき、今週のおひつじ座のテーマもまた、これからも生きていくために、いかに自分は人を愛しうるか(愛されるかではなく)、というところにあるのだとも言えます。
われわれは生きて肉体のうちにあり、いきいきした実体からなるコスモス(大宇宙)の一部であるという歓びに陶酔すべきではないか。眼が私のからだの一部であるように、私もまた太陽の一部なのである。(D・H・ロレンス『黙示録論』)
一般的には『チャタレイ夫人の恋人』の作者として知られるロレンスがテーマにしたのは、近代社会の狭くせせこましい道徳の中でがんじがらめになった生命力を、偽善の拘束から解き放つことでした。同様に、「いかに人を愛しうるか?」という命題は、今週少なからずあなた自身の実存に関わってくるでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
私もまた太陽の一部なのである