おひつじ座
我を忘れる技術
或る貴人の狂態
今週のおひつじ座は、「烏帽子脱いで升よとはかる落花哉」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、何かとがむしゃらに頑張ってしまう月並みさからみずからを外していこうとするような星回り。
この季節は誰しも桜の花が散っていくのが惜しいもの。けれど、掲句では散り落ちるさまを目の当たりにして、それはそれで見事なものだと感嘆しています。
ただし「烏帽子」をかぶった貴人とは、作者が直接観察した実景というより、想像上の作中主体であり、おそらく歌を詠む歌人なのでしょう。
それも単に花吹雪の美しさに心奪われるだけでなく、それまできちんと着していた烏帽子を脱いで「ほれ升じゃ」とばかりに我を忘れ、帽子をはかりにして花びらのかさをはからせた訳です。
その狂態は貴人としては思いがけないものであり、そこに和歌にはない、俳諧ならではの趣きを示そうとしたのかも知れません。
4日夜におひつじ座から数えて「時時のむかし」を意味する4番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ちょっとやりすぎなくらいに時代遅れないし時代の先駆けになっていこうとするくらいでちょうどいいでしょう。
心を器にする秘訣
そもそも「カルチャー(文化)」の語源が「耕す」を意味するラテン語「colore」に由来するように、精神的な豊かさというものは柔らかな大地の上にこそ実るもの。
江戸時代を代表する俳人・与謝蕪村(よさぶそん)は、ちょうどそんな光景を次のような俳句にしてくれています。
「畑うつや うごかぬ雲も なくなりぬ」
田を返し、土をいじっているうちに、さっきまで垂れこめていた暗雲がいつの間にかなくなってしまった。ただそれだけのことなのですが、蕪村はこの句を再興した芭蕉庵で句会を開いた日に詠んだのだそうです。句を詠むことを通じて芭蕉の精神を汲んでいく行為は、蕪村にとって心を耕す畑仕事であり、それは冒頭の句の貴人が烏帽子を升にして花びらをうけたように、心をからっぽの器にしていく秘訣でもあったのではないかと思います。
逆に心が長らく耕されないでいると、人間どんどんトゲトゲしくなるもの。その意味で今週のおひつじ座は、黙々と好きな作業に没頭する時間だったり、自身のケアに当てる時間を確保していきたいところです。
今週のキーワード
動物的放心