おひつじ座
哀より怒を
きちんと腹を立てるには
今週のおひつじ座は、金子光晴の「ぱんぱんの歌」のごとし。あるいは、みずからの怒りをきちんと白熱化し練り上げていくような星回り。
敗戦後、アメリカ兵相手の娼婦であったパンパンを見てうたった詩に、
「ぱんぱんはそばの誰彼を
食つてしまひそうな欠伸(あくび)をする。
この欠伸ほどふかい穴を
日本では、みたことがない。
くだくだしい論議や、
戦争犯罪やリベラリズムまで、
この欠伸のなかへぶちこんでも
がさがさだ。まだがさがさだ。」
というものがあって、『人間の悲劇』という題の詩集の中におさめられていますが、これはその題名にも関わらず、憤怒に近い強い怒りの感情が全体を支えているのが特徴となっています。
日本の詩歌は伝統的に喜怒哀楽の「哀」の表現に傾きがちで、その中にあって特に弱く、アキレス腱でもあるのが「怒」であり、その意味でこの詩に限らず作るものがことごとく「怒」に満ちているこの詩人はとても稀有な存在と言えます。
今の社会もそうですが、世の中にさまざまな怒りは充満していても、それを詩という形にまで鍛え上げ、結晶化できた人は本当に数が少ないのです。それは日本という国が、他国による侵略の犠牲被害にあったことが極めて少ないことも関係しているかも知れません。
5月1日におひつじ座から数えて「肚落ち」を意味する2番目のおうし座で、水星(言葉)が天王星(覚醒と刷新)と重なっていく今週のあなたもまた、きちんと腹を立てるべきことを意識して言葉にしていくことがテーマとなっていきそうです。
活力の燃焼としての怒り
かつて寺山修司は『家出のすゝめ』において、「怒りは自動車のガソリンのようなものです。怒りは要するに明日への活力です。怒りをこめて「ふりかえって」も、すぎさった日々は回収されないでしょう。それに過去というのは常に廃墟でしかありません」と書いたものでした。
ぱんぱんの欠伸する口は、あらゆる空疎な言葉を飲み込む深い虚無でしたが、それは彼女たちがその同じ口で怒りをを口から煙のように吹かしながら、それでも明日へ向かって活力を振り絞っていたからなのではないでしょうか。
そうだとするなら、絶望と希望に同じくらいの強さで引き裂かれ、きちんと地に足をつけて生きている人でなければ、「みずからの怒りをきちんと白熱化し練り上げていく」ということは難しいのかも知れません。自分の場合はどうか。ぜひ今週はそうして自分に問いかけてみてください。
今週のキーワード
我慢のオルタナティブ