おひつじ座
月光横溢
涙こぼれる時
今週のおひつじ座は、「月光にいのち死にゆくひとと寝る」(橋本多佳子)という句のごとし。あるいは、月光とともに他者への抑えきれない思いがあふれていくような星回り。
「いのち死にゆく」とはかなり強い言葉ですが、実際、作者は38歳の時に夫を失いました。この句を詠んだとき、作者は確かにそう表現せざるを得ないほどの激しい感情に駆られていたのでしょう。
生死を超えて、このまま傍らにいる相手と永遠に一体となっていたいという願いと、それが決してかなうことがないまま移ろっていくだろう悲しみとが、激しくせめぎ合いつつ彼女の心を引き裂いていった。
そこに、銀色の月の光が雫のようにそそぎこんで、二度と訪れることのないかけがえのない時間を感得させたのです。それは、二十年にもおよぶ結婚生活の歳月の重みがあってこその感慨でもあったはず。
満月は時が満ちたことのサインでもあり、8日におひつじ座と反対側のてんびん座で満月が起きていく今週のあなたもまた、これまで積み重ねてきた誰かへの思いに対してひとつの結果が突きつけられていくことでしょう。
危険な代物
たとえば花や樹木、穀物などの月のサイクルを考慮して植えるといった風習は、今日ではもはや違和感を覚えるかも知れませんが、月が植物の育成や繁茂に大きな影響を持っているという考えは、人類が長い歴史をかけて保持してきたものの代表例と言えるでしょう。例えば次のような古い歌には、そうしたいにしえの月のリアリティーがよく表れています。
「もし花を豊かな大地にしっかりと根づかせたいと望むなら、
月を種まきに向けてしっかり数えなさい
大地のうえ静かな真夜中の緑は
大地を覆う、銀の光にしたがい望む
永久の時と季節の円運動が導いてくれることを。」
(ダイアナ・ブルートン、『月世界大全』)
まっすぐに人間の心魂に届く太陽の光と違い、月光というものは、この世の直線的時間モデルを爆破炸裂させ、永遠の円環的時間という筋道だった説明がまったく通らない。そして、あの世的なものに触れてしまうという意味で、きわめて危険な代物なのです。今週は、そうした月の光にあてられて、どこかヘンになってくる自分を発見していくかも知れません。
今週のキーワード
アナザーワールドとしての月