みずがめ座
背景の力に気付く
影働きとその情緒
今週のみずがめ座は、「爪弾く社用で贈るメロンかな」(守屋明俊)という句のごとし。あるいは、密やかに着々と、必要な準備を整えていくような星回り。
句集『西日家族』では、この句の前に「ごきぶりを打ちし靴拭き男秘書」が置かれている。掲句の主体も同じ「男秘書」なのでしょう。同じく秘書の仕事の一環として、千疋屋のような高級果物店で「社用で贈るメロン」を選りすぐっているところ。
もし不味いものを贈れば会社の沽券にかかわると、並んだメロンをひとつひとつ爪で弾いているその姿にはどこか哀愁が漂います。おそらくは、秘書も作者も、高価なメロンなど口にしたことはないのでしょう。丁寧に選んではいるが、実際のところ何が良いものなのかはよく分からない。
途方に暮れるほどではないにしても、失敗を許されるものでもなく、気を取り直して、自分の仕事を完遂していかなければならない。その微妙な心理的ニュアンスが「爪弾く」というちょっとした仕草によって実に的確に表されています。
今週のあなたもまた、任された自分の仕事を「爪弾」いてみれば、そこに自分の心中が見事に表されたような鈍い音が鳴るはず。そんな音を胸にしまいながらも、ひとつひとつの言葉や選択肢を丁寧に選んでいくことです。
ないがしろにしてきたものを取り戻す
物事を支えている背景というものはふだん控えめで、自己主張することはほとんどありません。
だからこそ私たちは、大きな声で伝えられている社会のメッセージに応え、遠い彼方の何かのために戦い、道すがら咲いている可憐な花を踏み潰し、そのことにさえ気づかないまま生きてしまう。
今週はある意味で、普段わたしたちの実生活を支えているそうした背景に気付き、その働きと一体化していくことで、これまで自分がないがしろにしてきた半身を取り戻していこうとしているのだとも言えます。
草葉の陰に目をこらし、露の世を楽しむくらいのつもりでいるといいかも知れません。
今週のキーワード
図と地の反転