みずがめ座
無数の星と一片の詩
さあと音を立てて
今週のみずがめ座のテーマは、体内に流れ込んでくるものの選別。あるいは、自分をできるだけどっしりとした存在や物語にこそ結びつけていこうとするような星回り。
川端康成の最も有名な作品と言える『雪国』は、文字通り寒い季節の北国が舞台の作品ですが、寒い季節は星がひときわ鮮やかで、それを川端は「寒気が星を磨き出す」とユニークな比喩で捉えています。
そして、この作品のフィナーレである火事の場面では、主人公である島村の視点から圧倒的なまでの天の川体験を描き出します。
「火の子は天の河のなかにひろがり散って、島村はまた天の河へ掬い上げられてゆくよう」に感じられ、また、「天の河は島村の身を浸して流れて、地の果てに立っているかのようにも感じさせ」る。そうして、「さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった」と物語の幕を閉じていくのです。
確かに、無数の星の一団を川の流れに喩えるのは伝統的な表現ではありますが、それをここまで見事に身体性と結びつけたという一点でも、読者を驚かすには十分でしょう。
同様に、2月3日にみずがめ座から数えて「世間との折り合い」を意味する10番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、『雪国』の主人公・島村のようにどんな環境でなにを体内に流れ込ませていくかを大切にしていきたいところです。
落書き詩人の歌
あるところに、中華料理店のカウンターで鉛筆をなめて千円札に自分の名前を書き込む1人の東北出身の女中がいたらしい。と言っても、これは寺山修司が『落書学』というエッセイの中で思い描いてみせた1つの人物画ですが、それはかつて青函連絡船の待合室で、数少ない手持ちのお札の1枚ずつに俳句や短歌を書いて、それが人手から人手へと渡っていく姿を想像して愉しんだ寺山自身の分身だったのでしょう。
彼女にとって自分の名前は一行の詩なのであり、そのお札の一つ一つが、疎外され、無名であることを余儀なくさせられている境遇を転覆するために仕込んだ爆弾に他ならなかったのかも知れません。
経済発展によって世界中の人々の幸福の増進に資するであろうと多くの人々が素朴に信じていたグローバル資本の暗い本質が完全に露呈してきているいま、自分が自分であることを取り返すための署名は、いわば<詩的所有>という表現行為であり、コートを着る前に腰に香水をひとふりするような大人の嗜みの一つと言えるのではないでしょうか。
今週のみずがめ座もまた、自分なりのやり方で世間の関わり方やそのひっくり返した方を行為を通じて浮き彫りにしていくことがテーマとなっていきそうです。
みずがめ座の今週のキーワード
千円札に書いた名前よどこにいく