みずがめ座
ハードル下げ太郎
哀感を添えて
今週のみずがめ座は、「土佐脱藩以後いくつめの焼芋ぞ」(高山れおな)という句のごとし。あるいは、みずからに課すハードルをむしろ下げていくような星回り。
土佐脱藩というのですから、主人公は坂本龍馬なのでしょう。彼が脱藩したのは 28歳のとき。脱藩は死罪となることもあったり、血縁者が罪に問われることもありましたから、相当の覚悟を必要としたとされたわけで、実際に竜馬の場合も城下町から四国山脈をこえての決死の脱藩行でした。
彼の思想や実績への評価はここでは脇に置くとして、まさに革命家と呼ぶのにふさわしい生涯だった訳ですが、掲句はそうした激動の人生を「焼芋」をあわせて表現してみせたところがミソ。
いくら天下国家を語ろうが、革命家であろうが、同じ人間であれば腹も減れば焼き芋だって食う。しようもないことを考えたり、本能や感情に振り回されたりだってするでしょう。私たちはついつい歴史上の英雄や偉人を実際の人間以上の存在に祭り上げてしまいがちですが、掲句はそうは問屋はおろさないよ、とやんわりと告げているのだとも言えます。
19日にみずがめ座から数えて「人生の基盤」を意味する4番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、無理をして自分を高く見せようとするのではなく、哀感や添えつつありのまま自分を許していくといいでしょう。
イワンの奥底
哀感を添えた表現の別例として、例えばドフトエフスキーの大長編小説『カラマーゾフの兄弟』に、理詰めの無神論者であることを自他ともに認める次兄イワンが、敬虔な信仰心の持ち主である末弟アリーシャに対して、次のようなことばを漏らすシーンが出てきます。
生きたいよ。おれは理論に逆らってでも生きるんだ。たとえ事物の秩序を信じていないにせよ、おれにとっちゃ、春先に<芽を出す粘っこい若葉>が貴いんだよ。
この不意打ちのような一言によって、読者は無神論者であるはずの彼の心の奥底に、実は生命的なものへの愛が潜んでいることに気付く訳ですが、これなどはまさに「竜馬に添えられた焼芋」のごときものと言って差し支えないはず。
そして、最初から篤く神の摂理とこの世界の秩序を信じているアリーシャの口からでなく、イワンの口から発せられている点に、人間の複雑さに対する、ドフトエフスキーの厳しくも優しい眼差しを感じていく訳です。願わくば、今週のみずがめ座もまた、自分自身にそうした詩人的な眼差しを向けていきたいところ。
みずがめ座の今週のキーワード
生命的に自分を捉える