みずがめ座
遠くとフッと繋がるということ
「その辺」の妙
今週のみずがめ座は、「苔寺を出てその辺の秋の暮」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、何でもないようなシチュエーションで宇宙的な感覚を養っていくような星回り。
京都を訪れ、実際に苔寺に遊んだ際に詠まれた句。夕方になって拝観時間が終了し、ちょうど苔寺を出たあたりの「その辺」に、作者は何かを感じた。
ただ、それはこれといった何かがあったという訳ではなくて、むしろ特別なものは何もないにも関わらず、それ以前にはなかった感興が琴線に触れてきたということなのでしょう。
閑散としていながらも、どこか清らかで、夕闇に漂う空気はそこはかとなく宇宙的―。
そんな寺の周辺のなんでもない風景に宿った情緒を想像させてくれる一句と言えますが、それもこれも「その辺」という漠然とした日常語のチョイスと言葉の置き方による妙に他ならないように思います。
9月23日にみずがめ座から数えて「宇宙の遠を居合わせること」を意味する9番目のてんびん座へ太陽が移る秋分を迎えていく今週のあなたもまた、不意に自身の日常に遠くからやってきたものが紛れ込んでいるのを感じ取っていくことでしょう。
冷蔵庫をあけたときのフッとした瞬間
これは吉本ばななの『キッチン』という小説でのワンシーンなのですが、冷蔵庫を開けた瞬間にフッとおばあさんのことを思って、おばあさんが死んだら困るなと、死んだおばあさんのことが何か自分の中に蘇ってくる訳です。
もちろんそれは、冷蔵庫を開けたら現れるとは限らないものであるはずなのに、それが起こってしまう。要は、因果律に合わないことをやっているんですね。
ただ、そのときに、そばで誰かがそのことを否定できないこと分かってくれる時がある。「どう思う?」「うん」「そうだよね」「そうでしょ」みたいな。
言わば、ハイパー・コミュニケーションが起きていて、そこで合理的に計算されたものをはるかに凌ぐエネルギーが許されてしまう。それはエネルギー保存の法則を突き破る、たまゆらの一瞬とも言えましょうか。
先に取りあげた俳句の「宇宙的な感覚」というのも、言い方を変えればそういうことでもあったはず。今週のみずがめ座は、そういう物理学における「不確定性関係」というか、どこか困惑を伴うような悦びを感じていくことができるかも知れません。
みずがめ座の今週のキーワード
たまゆらの一瞬