みずがめ座
ひとりの格闘者として
芯の通った戦い方
今週のみずがめ座は、坂口安吾の短編小説『白痴』のごとし。あるいは、時代と格闘する者に〇を付けていくような星回り。
吉本隆明は「戦後の日本には、大それたことを考えている文学者は坂口安吾と太宰治の他にはほとんどいなかった」と書いていましたが、彼らは戦争中に時事的なことはほとんど書きませんでした。
肯定的なことも否定的なこともわずかしか書かず、その代わり坂口安吾は戦争が終わってすぐに『白痴』を発表したのです。これは終戦間近の裏町を舞台に、主人公である映画演出家の独身男のもとに、知的に障害のある女性がころがりこんできたことがきっかけで一緒に暮らすようになり、空襲があるとうろうろと逃げまわる、その奇妙な日常について描いた作品でした。
「やりきれない卑小な生活だった。彼自身にはこの現実の卑小さを裁く力すらもない。ああ戦争、この偉大なる破壊、奇妙奇天烈な公平さでみんな裁かれ日本中が石屑だらけの野原になり泥人形がバタバタ倒れ、それは虚無のなんという切ない巨大な愛情だろうか。破壊の神の腕の中で彼は眠りこけたくなり、そして彼は警報がなるとむしろ生き生きしてゲートルをまくのであった。生命の不安と遊ぶことだけが毎日の生きがいだった。」
これはある種の自虐でもありましたが、戦争に反対もしなければ、便乗や肯定も決してせずに距離を取っていたという点で芯が通っており、やはり坂口安吾は真の意味で知識人的であったと感じます。
29日にみずがめ座から数えて「追求心」を意味する9番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、既存の思想に埋没したり、流行のそれへと安易に逃げてしまうのではなく、自分なりの仕方できちんと時代と向きあっていくべし。
求道者のうしろ姿
代表作である『白痴』の他、小説家としての坂口安吾には評価された作品以上に失敗作も多かったのですが、それでいちいち腐ったり、ニヒリズムに陥るようなことはなく、むしろ強気に居直り、次の仕事に取り組まんとする全人的なバイタリティーに溢れていました。
そんな安吾について、評論家の七北数人は次のように評しています。
「いつでも人生いかに生くべきかを真剣に考え、求道の念が強すぎて時にくずおれそうになる弱い心も隠さずさらけ出す。文章のはしばしに滲む悲しみは、青春の純粋な魂を失わずにいる人にだけ沁みとおっていく清水のようなものかもしれない。」
安吾だって初めから強い人間だった訳ではない。むしろ逆だったのです。だからこそ、才能という点では頭一つ抜けていた太宰が途中で自死してしまったのとは対照的に、最後まで生にかじりつき、不器用にも強くあろうとし続けたのであって、真の意味で「無頼派」たりえたのかも知れません。
今週のみずがめ座もまた、そんな安吾の執念をこそ見習っていきたいところです。
今週のキーワード
大それたことを考えること