みずがめ座
再生する場をもつ
アローン・トゥギャザー
今週のみずがめ座は、猥雑なる健康ランドのごとし。あるいは、一個の肉体をたずさえてさまよえる霊魂となっていくような星回り。
檜風呂や露天風呂、ワイン風呂や酵素風呂、寝風呂、電気風呂、サウナ、ミストルームなどを適当に転々として、ランド内の食堂か、休憩スペースでビールをあけて一息いれる。
あたりを見回してみると、受験勉強をしている学生や、何日も逗留しているらしいおじさんやデートにきたカップル、手慣れた老人、独身であろうサラリーマンなど、じつに多種多様な人たちがそこに存在していることに気が付く。
くたびれた感じの人が多いというイメージがあるが、実際に色々な健康ランドに行ってみると場所や土地柄によって喧噪の配合はさまざまだ。荻窪あたりだと、レストルームに女性がたくさんいる時などは、いかにもしどけないといった感じでゆるんでいるし、新宿などでは、どうしてもさびしさの度合いが強まる。
都会の、孤独な魂たちの、顔の見えない、何が本当なのか分からない、それでも生きている、という空気の半透明の感触がそこにはあって、健康ランドではみな思いのままに自分自身となり、また他者でもあることができるという特権を与えられているように思える。
21日にみずがめ座から数えて「安心できる場所」を意味する4番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、おのれの孤独を賑わせる術を改めて知っていくべし。
理想としての「メトリオパティア(穏やかな情念)」
人間というのは畢竟、愚かな存在であり、どんなに理知的な人であったとしても魔が差す時は差しますし、突発的にとんでもないことをしでかすことがある。そういう時は理性は働かないし、取り繕うとすればするほどおかしなことになっていく。
健全な人間とは、精神がいかなる病的な魂の動きによっても惑わされない人々のことと考えるとすれば、逆に心惑わされている人々のことを「不健全」と呼ぶ必要がある
こう述べたのは古代ローマのキケロでしたが、そもそも妄想であれ欲望であれ、いかなる情念も持ち主を苦しめるために存在し始めた訳ではなく、むしろ生き延びるためのよすがとして成立したはず。謹厳で知られるストア派の哲学者たちもまた、無情念ではなく「メトリオパティア(穏やかな情念)」を彼らの理想としたことを思えば、彼らがもし現代に生きていたら、足しげく健康ランドに通ったのではないでしょうか。
それはともかく、今週のみずがめ座は、緊張に満ちた瞬間をやり過ごし、魔と十分に‟間”ができるまで待つ術を充実させていくといいでしょう。
今週のキーワード
整う