みずがめ座
陶酔の深みへ
発狂した宇宙
今週のみずがめ座は、酒をしこたま飲んで寝入ったときに見る夢のごとし。あるいは、心地よい余韻の中にいつも以上に浸っていこうとするような星回り。
フィリップ・K・ディックの独自の現実と虚構が交錯する小説『虚空の眼』のモデルとなったことで知られるフレドリック・ブラウンのSF長編『発狂した宇宙』には、酒に関する次のような一節が登場する。
おかしな酒だよ。何度も飲めば飲むほど、やられる時間が短くなって、そのかわり、夢みる時間がながくなるんだ。
いまじゃ五秒から十秒ぐらいのあいだに、けっこう二、三日ぐらいのことを見てくるんだ。
酒は文学とも似て、別世界に連れて行ってくれる感覚もあって、その陶酔感や心地よさにハマってしまうと、なかなか抜け出せなくなる。そのため、「現実逃避」や「退廃」などの言い方で非難されてきた危険な遊びでもある。
『発狂した宇宙』に出てくる「月ジュース」もまた、コップ半分のそれを一気にあおってから正気に戻るまでの45秒間のあいだに、酒場の天井を突き抜け、旋回しながらぐんぐんと上昇して大気圏を抜け、みるみる地球が小さくなる中で心地よい幸福感に満たされ、漆黒の宇宙をへて、もうすぐ月へ手が届きそう―という長大な幻覚を経験させられてしまう。
同様に、9月2日にみずがめ座から数えて「深い体感」を意味する2番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、陶酔を深めていくための自分なりのやり方を模索してみるといいだろう。
南柯(なんか)の夢
やはり『発狂した夢』の登場人物ジョウに至っては、金星まで飛んでドロドロの沼地で宇宙女性と遊んだり、五秒が十秒で二、三日分の宇宙旅行をするのだという。
もしかりに平均睡眠時間と同じ七時間ものあいだ酩酊したとすれば、ちょうど二十余年分の宇宙旅行ができる計算となる。この数字で思い出されるのは、古代中国に伝わる「南柯(なんか)の夢」というお話。
泥酔して見る一睡の夢の中で、主人公は蟻の国の太守になって、なんと二十余年もの間、栄華を極めて目が醒めるのだ。いったいどんなお酒を飲んだのか知りたいところだが、残念ながらそこまでは書き残されていない。
やはり、自分を陶酔の彼方へと押しやる方法はみずからの手で見つけるしかないのだろう。今週のみずがめ座もかくありたし。
今週のキーワード
酒と文学