みずがめ座
問いかけを受け止める
ソクラテスの遺した宿題
今週のみずがめ座は、みずから死を選んだソクラテスのごとし。あるいは、人間は論理的ではないし、話し合えば正しさが実現するわけでもないというところから改めて出発していくような星回り。
西洋の哲学の半分くらいはソクラテスの死のうえに築かれていると言っても過言ではありませんが、彼の死は、多くの人が既に言及しているように、現代風に言えばまさにポピュリズムによる死そのものだと言えるように思います。
ソクラテスが活躍した紀元前5世紀のアテネは、古代民主制を確立し、豊かな文化を誇っていましたが、これが同世紀後半になると、大きな戦争に巻き込まれ、社会に混乱と衰退が忍び寄っていきます。
ソクラテスの裁判はそんなムードの真っただ中で行われた訳ですが、彼は独裁者や秘密警察に不当に処刑された訳ではなく、あくまで市民によって訴えられ、市民から刑を言い渡されたのです。
ソクラテスに向けられた非難の概要は、あまえはなんかあやしい、嫌なことを言う、炎上を引き起こして空気を乱す、だから死ねというもので、これは現代のSNSで頻発する血祭り現象とほとんど同じでしょう。
彼は人々に論理が通用しないことをよく知りながら、それでも自分は論理を選び、自分の信念に従って死刑を受け入れていきました。弟子のプラトンはこの「失敗」から出発し、晩年に壮大な理想国家論を導き出しました。
そして17日にやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんなプラトンよろしく、どうしようもなく抗えない現実や、決定的な「喪失」や「失敗」としての現状を受け入れていくことが、第一の課題となっていくはずです。
セネカの問いかけ
暴君ネロの家庭教師をつとめ、のちに謀反に加担したかどでネロに自殺を命じられたローマの哲人セネカには、『人生の短さについて』という著書があります。
実際には70歳を超えるまで長生きしたセネカですが、この本の中で繰り返し述べているのは、人生はみなが思っている以上に短くはないし、時間の使い方次第で相当のことができるが、しかし自分の時間を生きていない者はその限りではない、ということ。
「何かに忙殺される者たちの置かれた状況は皆、惨めなものであるが、とりわけ惨めなのは、自分のものでは決してない、他人の営々とした役務のためにあくせくさせられる者、他人の眠りに合わせて眠り、他人の歩みに合わせて歩きまわり、愛憎という何よりも自由なはずの情動でさえ他人の言いなりにする者である。そのような者は、自分の生がいかに短いかを知りたければ、自分の生のどれだけの部分が自分だけのものであるかを考えてみればよいのである。」
自分の教え子に自害を迫られたセネカは、最後に何を思ったのでしょうか。そういう意味では、彼の人生そのものがひとつの問いかけのように思えますが、今週のあなたもまた、無視できない過酷な現実をひとつの謎かけとして受け止めていくことになるでしょう。
今週のキーワード
『ソクラテスの弁明』と『国家』