みずがめ座
人としての境を超える
得体の知れない結びつき
今週のみずがめ座は、「狼の声そろふなり雪のくれ」(内藤丈草)という句のごとし。あるいは、自分が結んでいる「名前のつかない関係性」について、改めて実感を強めていくような星回り。
作者はおよそ300年前に生きた江戸時代の人。その時代には、狼が冬場にエサを求めて里にやってきたのだ。外は降りしきる雪のなか、日没間近の薄暗さ、姿までは見えないが、あちらこちらに聞こえていた鳴き声がほぼ1つにそろう。「さあ、里にやってくるぞ」と。
掲句はそんな縮み上がるような恐怖の図なのですが、と同時に狼と狼、そして人と狼の不思議な距離感を伝えてくれる句でもあります。
狼たちは、たとえお互いの顔が見えなくても声を通じて居場所を確認しあい、ときに声をそろえることで合図とする。
彼らは平均4〜8頭ほどの社会的な群れと形成するとされ、それは順位制を伴い常に儀式的に確認しあうことで維持されたそうですが、そうして人間でいう友達とも夫婦とも家族とも微妙に異なる独特の関係性を作っていた訳です。
そして、狼と人との距離感も、現代人が思うようないわゆる野生動物と人間との距離感と微妙に異なり、それは単なる人体獣の交渉というよりもほとんど人体人のそれに近く、そこでも私たちの頭の中のカテゴライズをずらしてくる。
今週は、響きあう狼の声や、彼らに恐怖しつつも、どこかで親しみを感じていた江戸時代の人々のように、通常の関係性のカテゴライズの枠にはおさまらない関係性というものについて、その実感を深めていくことになりそうです。
猛獣になった老人
「名前のつかない関係性」の根本は、命と命のやりとりにあるのかもしれません。
その際、命のなんたるか知る人と言われて思い出すのは、何とってもかつて猛獣使いとして名を馳せたムツゴロウさんでしょう。ですが、彼自身がいちばんの猛獣だと思うのです。
オスの狼に「愛してる」のサインを送って3日3晩愛し合ったとか、熊とひとつ屋根の下で生活をしていた頃に求愛され、そのあまりの愛くるしさに当時結婚していた妻と本気で離婚を考えたとか。
ムツゴロウさんってとにかく見境がないんですよね。そういう意味ではあの蛭子さんを超える「色狂い」とさえ言えます。
表面的な生き物好きの人に見られる精神の虚弱さや脅えのようなものが一切感じられないところが、彼の猛獣たる由縁なのかもしれません。
きっと、「名前のつかない関係性」を結んでいくのにも、そうした猛獣性が必要なのでしょう。
今週のキーワード
異類婚姻譚