てんびん座
わが愛すべき同じ穴の貉
低い視点から見知らぬ土地に入っていく
2023年5月17日あたりまでの約1年間が、てんびん座にとって12年に一度訪れる大きな奔流に押し流されていくリセット期間だったとすれば、2023年下半期のてんびん座は、そうして押し流された先の見知らぬ土地で「どうすればいいのかわからない」ながらも、どうにか生き残るべくサバイバル活動をしていく時期なのだと言えます。
何に対しての「わからない(判断保留)」なのか。それは目に耳に飛び込んでくる世間の喧噪に対してであり、以前としてこんがらがったままの物語にどうしたら大団円の決着をつけられるのか、といった大上段からの眺めに対しての宙づりです。
例えば社会学者の岸政彦は、友人が突然中国や韓国を激しく罵ったり過去の戦争をみだりに肯定するような発言をした際、恐怖や怒りがない混ぜになった感情を抱くとともに、「むこうからしたら私たちも同じように見えているのだろう」とも考え、もつれにもつれさまざまな矛盾や断絶を孕んでいる現実を前に、ただただ「どうすればいいのかわからない」と途方に暮れ、本の中でも容易に結論を出していません(『断片的なものの社会学』)。
それは一見すると、迷いがちで、頼りなく、しょぼくれていて、そうした態度は魅力的でも生産的でもないように見えますが、「テロに屈しない」「相手が悪い」「邪魔者は出ていけ」といった、シンプルで分かりやすく正義感に満ちた強い言葉で誰か何かを一方的に断罪したり、冷笑的に排斥していくよりも、ずっと思慮深く、創造的で、これからの時代に必要な態度なのではないでしょうか。
岸は本書の中で、「そもそも自分自身というものが、ほんとうにくだらない、何も特別な価値などないようなものであることを、これまでの人生の中で嫌というほど思い知っている」といったことを繰り返し述べていますが、こうして自身の立脚点を低めることができているからこそ、現実の複雑さがより一層増しているこの時代において、世間や社会からはみ出したものに寄り添い、かすかな違和感や観察結果から垣間見えた小さな真実を積み上げ続けるといった地味で根気のいる作業を続けることができているのでしょう。
その意味で2023年下半期のてんびん座は、さながらグーグルマップやドローン、情報サイトなどが使えない土地で、自分の手足や耳目で得た情報をもとに白紙に地図を描いていく調査員になったつもりで、フィールドワークにはげんでいくべし。
2023年下半期:てんんびん座の各月の運勢
7月「古地図歩きの快楽」
7月14~17日に前後して、てんびん座の守護星で「感性」を司る金星が、「幻想」を司る海王星の影響を取り込もうと意識的に努力していくような配置をとります(150度)。
海王星は「いま、ここ」という目の前に置かれた狭い現実の制限をとっぱらって、時空の幅をグーっと大きく、意識のフォーカスを拡大していくような形で作用しますから、この配置は、さながら古い地図にもとづいて街歩きをしていくようなイメージです。それが縄文時代の地形図であれ、文明開化期の古地図であれ、今まで見えていなかったたくさんの情報が入ってくるはず。気付いたら、そうして遠いところを見る目つきで近くを見ることの面白さに病みつきになっているかも知れません。
8月「UFOのように唐突に」
8月9~11日頃には、てんびん座の守護星で「交流」を象徴する金星が、「突き放し」の天王星に強烈に揺さぶられていきます(90度)。これはニコニコ愛想よくしていた人が、唐突に真顔になって、対応も急に素っ気なくなっていくような配置と言えるかも知れません。天王星はその場の同調圧力だとか、業界的なローカルルールに一切迎合しない星なので、この時期はそういう文脈にのっかって関わっていた相手のことが急にどうでもよくなってしまったりするのです。
ただ、天王星は近くのものは拒否する代わりに遠くのものの影響は取り入れようとしますから、これまで自分とは縁遠く感じていた相手だったり、一見何の接点もないような人と急に接近したり、ということもあるでしょう。なんというか、UFOの飛び方のように、動きに脈絡がなかったり、急に変なところにいたりするイメージです。
9月「ドーーン!!!」
9月15~17日にかけて、「好みや快楽」を司る金星が、「拡大発展」の木星と共振・増幅しあっていきます(120度)。この時期は、どこまでも屈託がなく、のびのびとストレートに自分の好みや要求を繰り出していくことができるでしょう。テレビの旅番組のように、赤の他人の食卓に図々しくあがりこんでいくのもお茶の子さいさいといった感じ。
逆に言えば、わきが甘くなるというか、お笑いのボケをえんえんとかぶせていくようなところがあるので、気を抜いていると中学にあがって急に偏差値が急降下していったかつての同級生のようになってしまうかも知れません。
10月「大航海時代へ」
10月7日頃には、てんびん座を運行中で「主体性」を司る太陽が、「領域拡張」の木星の影響を取り込もうと意識的に努力していくような配置をとります(150度)。
この時期は、さながら大航海時代の冒険家のように、まだ地図にない未知の土地へと積極的に足を踏み入れ、自分の世界を大胆にも広げていこうとするでしょう。すなわち、今まで行ったことのない場所へ行ってみたり、やったことのない未経験の領域に手を出し、あまり関わったことのないタイプの人たちに出会っていくことに対して、ギアが入っていきやすいはず。リスクやコストなどはいったん脇に置いて、人生を広く開拓する修業だと思って、楽観的に臨んでいくべし。
11月「取捨選択の基準を絞る」
11月9日頃に、てんびん座に入って勢いづいた「交流」を司る金星が、「秩序やルール」を司る土星の影響を取り込もうと意識的に努力していくような配置をとります(150度)。ここでは前の月からの流れから一転して、対人関係の取捨選択ということを意識していくことになりそうです。
何でもかんでもOKという訳にはいかなくなって、どんな相手とは関わらないようにするべきか、また、どんな基準で相手を選ぶべきか、そして、何を目的として人と付き合うべきなのか、改めて意識的に絞っていくような感じです。あえて言ってしまえば、できるだけ長続きできるようなパートナーシップをどうしたら構築できるのか、信頼できる相手は誰なのか、といったことを念頭に置いてみるといいかも知れません。
12月「君を喰らわば…」
12月3日に前後して、「好き嫌い」を象徴する金星が、「極限ハードモード」の冥王星に強烈に揺さぶられていきます(90度)。平素はどちらかというと自分が傷つかないほどほどのところでサッと線を引いてしまう傾向の強いてんびん座ですが、ここでは自分から嵐に突っ込んでいく船乗りのように、むしろ異常な体験に引っ張られていきやすいでしょう。
この配置では、半ば憑りつかれたようになってしまう人をしばしば見かけますが、いっそ「毒を喰らわば皿まで」どころか「君を喰らわば骨まで」くらいのつもりで前のめりになってみるのもアリでしょう。
2023年下半期:てんびん座の「おすすめの文豪」
フリオ・コルタサル
現代ラテンアメリカ文学において、ボルヘスと並ぶ短編の名手とされているのが、このコルタサルであり、彼ほどの作品においても思わずうなりたくなるような鮮やかな手つきで読者を幻想世界に誘っていきます。
例えば、狂気と正気、夢と覚醒の不気味な緊張のなかで崩壊する日常を描く『山椒魚』(岩波文庫『遊戯の終わり』収録)。憑りつかされたように水族館に通いつめては山椒魚の水槽をひたすら眺めていた「ぼく」は、不意に「彼ら山椒魚の秘めた意志、つまり一切に無関心になりじっと動かずにいることによって、時間と空間を無化しようとする彼らの意志がおぼろげながら理解できる」という思いを抱きます。
ここでの「彼ら」とは、とどまりようもなく連続し、継起してゆく時間から逃れることのできない人間と異なる「別種の時間」の象徴であり、そんな「彼ら」にいつの間にか意識が乗り移ってしまった「ぼく」は、次第に自己の分裂に直面しつつもそれを受け入れていくのですが、やがて物語は次のように締めくくられます。
そして今、この終極的な孤独の中で(彼はもうここへは戻ってこない)、ぼくの慰めと言えば、いずれ彼がぼくたちについて何か書いてくれるだろう、自分では物語のひとつも思いついたつもりになって、山椒魚についてこのような物語を書いてくれるだろう、そう考えることだけなのだ
ここで「彼」がいずれ書くであろうと「ぼく」が期待している物語こそ、実は私たちが読んでいるこの「山椒魚」という作品に他ならないのではないかという可能性が示唆され、それによって作品全体を包み込む円環構造が浮かび上がってくる訳です。
また、フランスのハイウェイで前触れもなく発生した終わりの見えない大渋滞を題材とした『南部高速道路』(岩波文庫『コルサタル短編集 悪魔の涎・追い求める男 他八篇』収録)でも、やはり日常的な時間構造の変容がテーマになっています。
渋滞の原因も判然としないまま、車の隊列はほとんど動かなくなってしまい、そこから幾度目かの夜と朝を迎えた頃には、人々は車から降りて互いに行き来するようになります。そこかしこでグループが形成され、情報交換や食べものや生活必需品の物々交換、病人の看護など、かりそめの共同体を営みはじめ、恋人もできた主人公の男は、いつしかそんな生活に不思議な安らぎを感じるようになっていく…。
ところが、そんな日々も唐突に車の群れが速度を上げ始めたことであっけなく終わってしまいます。いったん動き始めた車の流れはそのまま留まることなく、気が付けばかつて慣れ親しんでいた日常の時間の流れにふたたび参与している。そうして、この奇妙な小説は次のように幕を閉じるのです。
車はいま時速八十キロで、少しずつ明るさを増して行く光に向かってひた走っている。なぜこんなに飛ばさなければならないのか、なぜこんな夜ふけに他人のことにまったく無関心な、見知らぬ車に取り囲まれて走らなければならないのか、その理由は誰にも分からなかったが、人々は前方を、ひたすら前方を見つめて走り続けた。
こうしたコルタサルの作品群は、さながら見知らぬ土地をおぼつかない足取りでうろついては、ゼロからこの世界の地図を作り直そうとしている今期のてんびん座にとって、大いにヒント刺激とを与えてくれるはず。
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