
いて座
長期戦の中で負けを利用していく

長期戦の中で負けを利用していく
2023年上半期までのいて座が、これまで自分の置かれてきた環境に対する不満や違和感を種に、「中長期ビジョン」を自分なりに思い描き始めていくような時期だったとすれば、2023年下半期のいて座は、2024年以降に迎えていく新たなサイクル(木星の公転周期である12年)へと橋を架けるべく、より本格的にその実現に向け「根回し/裏工作」を進めていくような時期となっていくでしょう。これは議会で同僚と議論したり合意形成に勤しんでいた議員が、実際に渦中の現場に潜入し工作員として作戦を実行していていくようなイメージでもあります。
そして、こうした局面で重要になってくるのが、相撲で例えると「9勝6敗を狙う」ということ。これは、裏社会に生きたギャンブラーであり作家でもあった色川武大が、さまざまな経験の中で培ったセオリーなのですが、ギャンブルだけでなく、人生においても全戦全勝なんてどだい無理なのだから、どこでどうやって勝つかということだけでなく、どんな負け方をしそうか、どこで負けるのか、といったことも同じくらい意識しなくてはならない、というわけです。
今期のいて座のテーマである「根回し/裏工作」というのも長期戦であり、ある種のがまん比べみたいなところがありますから、こういうセオリーを持っていないと、どうしても本来の実力以上のものを発揮しようとしてしまって、一時的には活躍しても、それが意外と続かないことの方が多い。その点、色川は勝負事の世界というのは、とにかく「持続が軸」なのだと口酸っぱく強調しています。
とはいえ、8勝7敗がギリギリで勝ち越しですから、9勝6敗というのはそれに色がついた程度でどうにも心許なく感じてしまう。ところが、色川は「14勝1敗の選手を、1勝14敗にするのはそれほどむずかしくない」が、「誰とやっても9勝6敗という選手を、1勝14敗にすることは至難の業」なのだと言います。なぜなら、安定的に6敗で勝ち越せる選手というのは、「大負け越しになるような負け星を避け」るのがうまいし、逆に本来の実力に見合わない勝利を捨てられるがゆえに、フォームが崩れることがなく、ブレにくいのだ、と。その意味で、今期のいて座のポイントは、いかに自分の欠点や弱みを自覚し、それを逆に利用していけるか、というところにあるのだとも言えるかもしれません。
2023年下半期:いて座の各月の運勢
7月「大いに脱線を楽しもう」
7月17日に前後して、いて座の守護星で「信念」を司る木星に、「知性」を司る水星が強烈な横やりを入れて揺さぶりをかけていきます(90度)。この配置は、喩えるなら神保町の古本街などに行って、ついつい目当ての本とは全然関係のないジャンルの本や冊子を大量に購入してしまったり、そこから興がのって大いに脇道に逸れていくような脱線現象にあたります。
コスパやタイパという点では、無駄や徒労も増えていきますが、その分引き出しが多くなって知識や考え方に深みや奥行きがでたり、単純に楽しい体験になっていくはず。あるいは、この時期に出会う情報はあなたに意外な発想の転換を促してくれるでしょう。
8月「戦慄、圧倒されるような場所を求めて」
8月1日に前後して、いて座の守護星で「理想」を象徴する木星が、「実行力」の火星と共振・増幅しあっていきます(120度)。この時期は、机上で間接的に得られる知識をこねくり回すことから離れ、自然ともっと野蛮で未開な側面からナマな現実にかち合っていこうとするでしょう。例えば、民俗学の父・柳田國男は『遠野物語』の冒頭に次のような一文を付しました。
国内の山村にして遠野よりさらに物深き所には、また無数の山神山人の伝説あるべし。願はくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。
日本の古い民話に出てくる「山」という場所には、人びとの恐れと憧れが織り込まれていた訳ですが、今のあなたにそれに近い思いを抱かせる場所は、果たしてどこにあたるでしょうか。
9月「自我肥大を戒めて」
9月8日頃には、「幸運」を司る木星に、今度は「生命力の活性化」を促す太陽が同調して加速化していきます(120度)。この時期は、言わばラスベガスのような大きな賭け金が動いている環境におのずとひき寄せられていくようなイメージ。なんとなく気も大きくなって、普段ならしないような勝負にも軽い気持ちで乗っていきやすいですし、歯止めもきかなくなりがちに。
確かに、何かと支援や援護を受けやすくツキも巡ってきやすい時期でもあるのですが、どちらかというと自我が肥大化してボロが出やすい時期なのだと、自分で自分を戒めておくくらいでちょうどいいでしょう。
10月「成功は失敗の型で出来ている」
10月27~9日にかけて、「社会的連帯」を司る木星が、「チャレンジ精神」の火星に全力で身をあずけていきます(180度)。この配置は、喩えるなら獄中の犯罪者に手紙を出して対話を試みる記者のよう。すなわち、誰かを救うにしろ、救われるにしろ、この時期は何かとこれはと思った相手に進んで手を伸ばしていこうとするでしょう。それは、常識的に考えれば報われることのない「負け戦」であることがほとんどかも知れません。
しかし、私たちはもっと失敗してもいいのではないでしょうか。思想家の鶴見俊輔の言葉に「成功は失敗の型で出来上がっている」というものがありますが、この時期は確実な勝ちを拾おうとするよりも、むしろいかに大胆に負けを張れるかということを大事にしていくべし。
11月「脱・共同幻想の一歩」
11月3日頃には、いて座の守護星で「自己肯定感」を象徴する木星が、「未来をつくる」太陽をターゲット化していきます(180度)。日本人や日本社会というのは、つくづく“現状維持”が大好きで、徐々にジリ貧に追い詰められているような状況でも、積極的な手立てをとることを避けようとする節がありますが、その点、この時期のあなたはみずからの手で局面を打開せんと大胆な意思決定や選択を下していくことになるでしょう。
しあわせな幻想を見ること以上に楽しいことは滅多にありませんが、ここは心を鬼にしてでも、幻想から抜け出して望ましい現実へと前進していく一歩を踏み出していきたいところです。
12月「拒否権の発動」
12月21日に前後して、いて座を運行中で「自己主張」を司る火星が、「抵抗勢力」を象徴する天王星を自身にギューッとねじ込んでいきます(150度)。この時期は、どうしても納得できないことには必ず「NO」と言っていくのだと、多少無理をしてでも自分を駆り立てていこうとするでしょう。結果的に、周囲から思いきり浮いてしまったり、その過激な姿勢から発言が炎上してしまうこともあるかも知れません。
しかし、そこで生じた摩擦の分だけ、この時期あなたは生きている手応えをまざまざと感じていくことができるはず。意を決し、堂々と「否!」と叫んでいくべし。
2023年下半期:いて座の「おすすめの文豪」
色川武大
さまざまな職を転々とした色川は、阿佐田哲也名義の傑作『麻雀放浪記』シリーズで根強いファン層を得ましたが、『離婚』や『百』、『狂人日記』など、自身の実体験を昇華させつつ、普通には生きられない人びとの生き様を描いた小説群を通して、人間の機微や生きることの面白さやしんどさ、奥深さを圧倒的な文章力で読者に痛感させてくれます。
しかし、今回ここで紹介しようと思ったのは、彼が劣等生や不良者として体験してきた「どろどろ体験」を、その不思議にあたたかいまなざしで伝えてくれる『怪しい来客簿』という連作短編です。
例えば『空襲のあと』には、子どもの頃の同居人の雇い女であった不可解な婆さんの話がでてきます。着の身着のままのひょうきん者を装ってはいたが、実際には犬や猫のような扱いを受けていたという婆さんと、終戦から数年後にたまたま道ですれ違った時のことを、色川は次のように書いています。
婆さんの素足は焼死体のようにまっ黒だったし、顔は青くむくんで、私が踏んづけた低い鼻はそのためよけい目立たない。鼻孔の一方から鼻汁が白くたれていた
語り手の「私」がかつて誤って踏んづけたことがあるという老婆の鼻から垂れていた白い鼻汁は、まさに彼女の人生の象徴であり、色川はそれを見逃しませんでした。みじめな境遇の連続をなんとかやり過ごしながら生きてきたらしい老婆は、湿っぽく涙を流すかわりに、白い鼻汁を垂らしていた。ここには、滑稽さと悲惨さとがない混ぜになったどす黒いユーモアがあり、そうした普通の人であれば目を背けるか、さっさと忘れてしまうような「片すみの人」の記憶を、ひそかに心に留め続けてきたのが色川だったのです。
その意味で、勝ちよりも「負け」の方に心を寄せ、負け方の極意にたどり着かんとしている今期のいて座にとって、色川のまなざしはまさに時代を超えて寄り添ってくれる伴走者のそれのように感じられるのではないでょうか。