
ふたご座
寄せの局面に臨んでいく

寄せの局面に臨んでいく
2023年上半期のふたご座が、後先など考えずに、ただただ無心で突っ走ってきた期間にあり、よく言えばフロー状態に入ったアスリートのようだったとすれば、2023年下半期のふたご座は、ようやくゴール地点となるスタジアムが見えてきたマラソンランナーと言えるでしょう。
すなわち、自分がこれまでやってきたことの結果や行く末が見えてくる終盤戦へ突入していく時期であり、ここでは油断して後ろから迫ってきた選手に一気に抜かれてしまったり、ほっと安心した途端に疲労が一気に噴出して今までのように走れなくなったりと、いろいろと“想定外”なことも起きてくるはず。
将棋の世界では、対戦相手の「玉を詰ます」という最終目標を達成する具体的な手順に入っていく段階を「寄せ」や「詰み」と言いますが、自分では詰みそうな筋を読んでるつもりでも、あと一枚でも“歩”があればとか、配置がひとつずれていればとか、惜しいとしか言いようのない形で玉を逃がし、それがきっかけでずるずると逆転され、負けてしまうことだってあるのです。
最後に何があるか分からないのが勝負の世界であり、詰めが甘ければそれまでの積み重ねも台無しになるわけで、あの羽生善治もまた、著書のなかで「ここ(詰み)は何回やっても簡単ではないと痛感しています」と書いています(『迷いながら、強くなる』)。それくらい、今期のふたご座は慎重さと気迫とを併せ持っていかねばならないということ。
そしてその際大事になってくるのが、「終わりよければすべて良し」の区切りをどこでつけるか。物語の結末には、ハッピーエンドとバッドエンドの2つがありますが、一番つらくてしんどいのは、いつ終わるか分からない状況がいつまでも続くことでしょう。逆に、そんな曖昧な状況を切り抜けて結果が出せれば、たとえ今の対局には負けてしまったとしても、それを糧にして次の対局に向かっていくことができる。
だから、形勢が悪い時ほど、「区切りをどこでつけるか」ということをきちんと設定しておくことが大事になるわけで、ここが今期のふたご座の命運を左右していく鍵となっていくでしょう。先の「詰みの局面での大胆さ」というのも、そういう潔さの裏返しでもあるのだということを忘れずに。
2023年下半期:ふたご座の各月の運勢
7月「深い海に誘われる海女さん」
7月10日~11日に前後して、ふたご座の守護星で「好奇心」を司る水星が、「深層の果て」にある冥王星に全力前のめりで向かい合っていきます(180度)。これは喩えるなら、深い海の底の淵にある獲物を狙って潜っていく海女さんのような配置であり、もっと言えば、普段なら滅多に潜りにいかないような深さまで下りていこうとするような動きを表します。冥王星は人の一生3回分くらいの時間サイクルで完結するような現実の象徴でもありますから、ここでもおのずと普段なら口を開くのもためらわれるような重苦しい話題や、骨の折れる課題と向きあっていきたくなるはず。
逆に、日常的な軽いコミュニケーションには無反応になりやすいので、一両日くらいは缶詰めになって自分の世界に没頭するようなつもりで過ごしてみるとちょうどいいかも知れません。
8月「きちんと形にしていくこと」
8月1~2日にかけて、ふたご座の守護星で「言葉」を表す水星が、「型や枠」を表す土星に向かい合っていきます(180度)。前月からの流れで言えば、これは海の底で獲ってきたものがお宝であれごみ屑であれ、陸にあがって商品なり記念品なりきちんと形にして、「ハイ、できた」と提出するところまでこぎ着けていくような時期となっていきそうです。というより、そうすることで初めて手応えを感じることができるはず。
案外、潜っていたときにはその価値がよく分からなかったり、自分でも腑に落ちていなかった部分が、ここで枠の中に入れてみることでやっとハッキリしたり、実感が湧いたりすることも起きてくるのではないでしょうか。
9月「ボーナスタイム!」
9月は4日頃と25日頃の2度にわたって、ふたご座の守護星で「知性と学習」を象徴する水星と、「向上心」を司る木星とが、自然と高揚・増幅しあっていきます(120度)。そのためこの配置にはさまれた3週間ほどの期間は、外部の助けを借りて、自身をレベルアップさせていくには絶好のタイミングとなっていくでしょう。
自分の力だけで知識を習得したり情報を読み込むのは、気楽にすすめられるというメリットはあるものの、外部の影響が入らないためにどうしても単調で、予定調和に陥りがちに。ぜひこの時期は、意表を突いてあなたの世界をグーッと広げてくれるような相手に助力を要請していくべし。
10月「虚に居て実をおこなう」
10月2日に前後して、「言語活動」の水星が、今度は「非現実領域」の海王星に全力でのめり込んでいきます(180度)。そのため、堅い実務や単調作業は機能不全に陥る反面、この時期は、小説や詩、俳句や短歌、音楽、脚本など、何かしらの虚構をまじえた創作には打ってつけでしょう。
俳聖の松尾芭蕉が「虚に居て実をおこなふべし」という言葉を残していましたが、これは人間の存在自体がそこに浮かんでいる大いなる「虚」みたいなものの感覚をもちながら、人間のする営みとしての「実」と向きあっていったり、それを言葉にしていくということで、まさにこの時期のふたご座のよき指針となっていくように思います。
11月「危険領域へレッツ勇み足!」
11月4日頃には「知性」を司る水星が、今度は「アウトサイダー」の星である天王星へと全身全霊で向かっていこうとします(180度)。これはどこかスカっと抜けた痛快さを感じさせる配置で、非常に異端的だったり異常と見なされる対象や相手に自分から接近していきやすいでしょう。
例えば、あの業界で暗黙の了解で表立って批判したり指摘してはいけないことになっている事柄を積極的に追求したり、そういうことを既にしている人と夜を徹して語り合って爆弾発言をしたりさせたりといったイメージ。ギリギリどころか思いきりアウトな勇み足をかます可能性も高いですが、それも笑えそうなのでまあOK!
12月「ドクターコールに名乗り出る」
12月21日頃に「得意な仕事」を表す水星が、「義務と責任」を象徴する土星と息を合わせて協力協働していきます(60度)。これはさながら、「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」というアナウンスが流れた時に機内に乗り合わせた医者のイメージに近いでしょう。
求められた役割や要請内容が、まさにこちらが専門としている仕事領域だった時のプロの矜持が問われる時期であり、あなたの“有能さ”がもっとも発揮されやすいタイミングでもあります。必殺仕事人のごとく、確実に仕事をこなしていきましょう。
2023年下半期:ふたご座の「おすすめの文豪」
ライナー・マリア・リルケ
19世紀末のプラハに生まれたリルケは、なぜかその地にとどまらず、ロシアへの旅行での精神的な経験を経て、独自の言語表現へと歩みだしていき、それは初期の『時祷詩集』から最晩年の『ドゥイノ悲歌』などの詩集として結実していきました。
一方で、彼の人生は、ルー・ザロメやトルストイ、ロダン、プルースト、ボードレール、ヴァレリーなど、実にさまざまな芸術家や作家との交流に彩られているのですが、そうして経験した数々の出会いやそこで受けた影響などを作品化したのが『マルテの手記』という彼唯一の小説です。彼はこの作品の完成に、パリで過ごした20代の終わりから30代半ばまでのほとんどの期間である6年もの歳月をかけています。
天涯孤独の身となったデンマーク出身の主人公が、パリで淋しい生活を送りながら詩人になろうとするさまを手記の形式で描いたこの作品には、一貫した筋というものは特になく、パリの街を日々ほっつき歩いてはそこで見たものが記され、合間に生と死や愛などへの考察や、読書体験や過去の思い出がつらつらと綴られていきます。
当時のパリは産業革命を経て、より豊かで便利な社会になるべく大都市になっていった時代でしたが、その一方で貧富の差の拡大による一般庶民の悲惨な生活があって、主人公はそういうところをこれでもかと観察しては文章化していきます。もし現代に生きていたら、実況系YouTuberにでもなっていたかも知れませんが、ただ、彼がなろうとしていたのはあくまで詩人でした。
追憶が僕らの血となり、目となり、表情となり、名まえのわからぬものとなり、もはや僕ら自身と区別することができなくなって、初めてふとした偶然に、一編の詩の最初の言葉は、それら思い出の真ん中に思い出の陰からぽっかり生まれて来るのだ。
つまり、彼が書こうとしている詩とは、自分ひとりの力では決して書きえない詩であり、見聞きした都市と一体化していく中で、「思い出の陰からぽっかり生まれて来る」ものであって、彼はそのために日々せっせと仕込みをしている訳です。
その意味で、リルケは今期のふたご座にとって1つのロールモデルとなつていくかも知れません。この下半期のあいだ、あなたは何を見聞きし、それをどんな風に心に刻んでいくのか。それがやがて無数の作品となり、あなたそのものを表していくでしょう。