おとめ座
新たな生存戦略を編み出すこと
2021年上半期のおとめ座は、「marronner(逃亡奴隷化する)」という動詞のよう。
これは「逃亡奴隷」を意味する“cimarron(スペイン語)”ないし“marron(英語)”に由来し、それを直接動詞化した造語ですが、フランスの植民地であったカリブ海のマルティニーク島出身の詩人エメ・セゼールは自身の詩の中で次のように使いました。
笑い、飲み、そして逃亡奴隷化しよう
ここで言う「逃亡奴隷化する」とは、単にどこかへ逃げ出すことを意味するのではありません。セゼールは被植民地支配というカリブ海の暗い歴史や支配者側の言語(フランス語)を使わざるを得なかったという出自を逆に利用し、言語自体を変形させ反旗を翻すことで、「逃亡奴隷」という歴史的経験を内包しつつ、開放的で流動的な新しい文化創造の行為へと踏み出しているのです。
それは「~しなければならない」といった大上段からの正論に同調することだったり、みずから道徳に縛られるということではもちろんなく、 迷いや悩みを殺さずにそこにあずけることができる「倫理」を見出していくということでもあるはず。
そして、おとめ座のあなたもまた、今季は これまでの自身の経験やその出自的背景を踏まえた上で、それを新たな生存戦略を編み出すために利用していく必要があるという点で、セゼールのような詩人とある意味で似た立場にあるのではないでしょうか。
2021年上半期、各月の運勢
1月「まずは肩の力を抜いていこう」
13日のやぎ座の新月は、「変容と再生」の冥王星と重なっていることもあって、おとめ座にとって ある種の「生まれ変わり」に近い意味を持つ節目となっていくでしょう。趣味であれ仕事であれ、これまでずっとこだわり続けてきた特定の分野や業界、慣習や価値観に対する執着や重さのようなものがスッと薄れていったり、閉塞状況を打ち破るような新しい要素が思いもよらなかったところからヌッと出てきたり。あるいは、人生を彩る万華鏡のようなハプニングに子供のようなまなざしを開いていくか、それとも次から次へと降りかかる災難を新しい人生の要素として俯瞰していくのか。いずれにせよ、できるだけ肩の力を抜いて過ごしていきたい時期です。
2月「脱ブルシット・ジョブのために」
15日におとめ座の守護星である水星が逆行中に「拡大と発展」の木星と重なり、さらに3月5日には今度は順行で木星と改めて重なって行きます。この畳みかけるような木星の影響は、おとめ座にとってできることの選択肢の増加や拡張のための努力として表われてくるでしょう。ただし、単にスケジュールを埋めるために「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」ばかり増やしてしまわないようご注意を。 これまでとは異なるジャンルやスタイルを試したり、勤務や雇用の形態を柔軟に変化させていくことも視野に入れ、できるだけ一つの方法やリズムに偏らないバラエティー(彩り)を生活の中で広げていくべし。それでこそ、今の生活の中にある無駄や余計な苦労がどれなのかということも分かってくるはず。
3月「弱い絆の強い力」
22日前後にはおとめ座の守護星である水星が、今度は「自律分散」の天王星と生産的な角度(60度)をとっていきます。ここでは「弱い絆の強さ(The strength of weak ties)」というネットワーク理論のことを思い浮かべてみるといいでしょう。これは就職先を見つける際に役にたった“つて”を調査した結果、8割を超える数字で「しょっちゅう」会っている人よりも「時たま」あるいは「ごくまれに」しか会わない人の“つて”で就職していたという調査結果から、有益な情報は「あまり身近でない知人」が多くもたらすと結論付けました。この配置は「飛躍的な情報の結びつき」という意味がありますが、 これを機に遠いところにいたり、めったに会えない友人知人にコンタクトしてみるのもいいかも知れません。
4月「常在戦場」
17日前後にはおひつじ座を運行中の水星が、「サバイバル力」の火星と生産的な角度(60度)をとっていきます。この配置は自信をもってこれまでどこかで予期していたことをついに開始することを表しており、さながら馬を駆って戦場に飛び出していく部族の若者のようなインスパイアされた行動力や臨機応変さが鮮やかに沸き立っていくでしょう。したがって、部屋でじっと大人しくしているということは難しく、 自分なりの「戦場」をどこに見出していくことができるかが問われていくはず。不正や腐敗、怠慢、疑惑を暴いたり、それを言論を通じて追求したり、仕事に対する固い信念や達成すべき目標への強い意欲として現われることもありますが、いずれにせよ、いつでも戦場にいる心構えを忘れずにいたいタイミングと言えます。
5月「予見のガチャを回す」
12日前後にはふたご座を運行中の水星が、「無意識と想像力」の海王星と緊張感のある角度(90度)をとっていきます。この配置はともすると大変なうっかりミスを引き起こすことで知られていますが、一方で普通なら言葉にし得ないものを言葉にしてしまう詩人や文学者の配置ともされてきました。うまくいけば、 まだ名前のついていない感情やなまなましくも非現実的なイメージ、複雑な感覚的ニュアンスを自身や生活の中に見つけていくことができるかも知れません。詩人ヴァレリーの言葉に「書く、それは予見することだ」というものがありますが、まさにここで出てきた言葉はこれからのあなたの進む方向性を暗示するものとなっていくでしょう。
6月「一線を見極める」
10日のふたご座20度での新月は、おとめ座の守護星である水星とぴったり重なるように起きていきます。これは何らかの集合的な意識のムーヴメントに巻き込まれ、その強力な要請に応えていかなければならない状況を暗示していますが、そうしたムーヴメントに流されていくのか、それともあくまで中立を貫いて距離を取るか、あるいは自分のドラムから響くビートで未来へ行進していくかは、あなた次第と言えます。ただの衝動任せにならないためには、この時期に抱いている考えと行動がどこへと自分を運んでくれのるか、よく見極めていく必要があります。 一線を越えるには、どこに線が引いてあるかをまず知らなければならないのです。
2021年上半期、おとめ座が心に留めておきたい芸術家
マウリッツ・エッシャー
版画家。多くの錯視芸術(イリュージョン・アート)を遺したことで知られ、建築不可能な構造物や、無限を有限のなかに閉じ込めたもの、平面を次々と変化するパターンで埋め尽くしたもの、など非常に独創的な作品を作り上げた。例えば、『円の極限Ⅳ』という作品では、天使と悪魔が互いに地も図も奪って鎬を削りあい、図と地の関係を解消させるまでにおよんだ。しかしそうした作風の一方で、彼は50歳を過ぎた頃まで仕事に就かず、好きなように絵を描いてその日暮らしをしていたり、画家という世間的な認知に反して自分のことをあくまで数学者だと思っていたりなど、非常に人間臭い部分も持ち合わせていた。