ふたご座
柴の庵の豊かさを
2021年上半期のふたご座のテーマは、 「やわらかな陰翳」。
物質的な豊かさに取り囲まれた現代社会は、その一方で潜在的なテロリズムの脅威を抱え込みながら、“安全で豊かな生活圏”の維持のためにますます神経を張りつめるようになってきていますが、2021年のふたご座のテーマも 「豊かさ」にあります。
それも、今後10年以上にわたって付き合っていけるような長期的な豊かさの構築。ただし、それはやはり冒頭に挙げたような、みずからの生活圏からできるだけ不快な要素を取り除き、快感的な幻想で満たそうとするような、この上もなく管理された無菌室のような物質的豊かさというより、例えば谷崎潤一郎が『陰翳礼賛』で取り上げた「掻き寄せて結べば柴の庵なり解くればもとの野原なりけり」という古歌のようなものであるはず。
谷崎はこの歌に寄せて、「美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える」と述べており、「われわれ東洋人は何でもない所に陰翳を生ぜしめて、美を創造する」のだという見事な表現で、光と闇との混成系として「在る」ことの豊かさを言い表しています。
光と闇とは分離されてはならないもので、生きられるべき豊かさというのも、暗がりの中に置かれた蒔絵や螺鈿の器のように、やわらかい陰翳をやどしたものでなければならないのではないでしょうか。
今季のふたご座もまた、 これまでにない“豊かさ”がみずからの内に生成されていくプロセスを追求していくといいでしょう。
2021年上半期、各月の運勢
1月「逃げも隠れもしないこと」
12日に前後して、ふたご座の守護星である水星が、みずがめ座で「制限と試練」の土星、そして「拡大と楽観」の木星と相次いで重なっていきます。この二つの星は合わさると綱領や教義を表し、水星は情報の受発信ですから、自分の思想信条について対外的にきちんと伝えていくことが求められていくでしょう。当然、それに盛んに共感してくれたり、協力してくれる人も出てくれば、否定的な立場の人も出てくる訳ですが、ここでは特に後者の立場の人を無視するのでなく、応酬し対抗していこうという意識が出てきやすいはず。 強くなれ、今のお前ならできる、と星に言われているような感じでもあります。
2月「弟子の準備が整うて師が現れる」
15日にはふたご座の守護星・水星が逆行中に、「肯定と受容」の木星と再び重なり、さらに3月5日には今度は順行で木星と再々度重なって行きます。これは今まで素通りしてきてしまった現実にきちんと向きあい、自分なりに調べたり、学んでいく過程で新しい知見に開かれていく配置と言えます。ひょんなことから穴に落ちて不思議の国に迷い込んだアリスのように、「こんな世界があったのか」と目から鱗が落ちることもあるでしょう。そしてその際、ただ知識欲を満たすだけで終わってしまうのではなく、 自分なりの“信念”や“社会的立場”を問い直し、確かなものにしていくことができるかがポイントになってくるはず。
3月「知識人とは何か」
4日に「アグレッション(攻勢)」の火星がふたご座に入り、4月下旬まで在泊していきます。知識は個人的な楽しみのために吸収するばかりでは、その真価は発揮されません。かつて『知識人とは何か』を書いたエドワード・サイードは「果敢に試みること、変化を代表すること、動き続けること、けっして立ち止まらないこと」こそが知識人の果たすべき役割なのだと喝破しましたが、それはこの時期のふたご座にとって大いに指針になるはず。君主よりも旅人の声に鋭敏に耳を傾け、 上から与えられた現状より革新と実験へと歩を進めていきたいところです。
4月「あえて道草を食う」
10日前後にはふたご座を運行中の火星が、「夢と自己犠牲」の海王星と緊張感のある角度(90度)をとっていきます。これと決めていた目標やアプローチへの確信が揺らいできたり、時として予定していなかった大幅な進路変更を余儀なくされることもあるかも知れません。しかし、「急がば回れ」ではないですが、 本当に実現すべきことは何かということはしばしば頭ではなく身体や、身体がキャッチした虫の知らせが教えてくれるものだと、この時期改めて思い出してみるといいでしょう。あえて夢に従ってみるもよし。
5月「温故知新」
26日にふたご座の太陽といて座の月との間で月蝕の満月を迎えていきます。この月蝕でのテーマは「古い霊魂へのアクセス」と、それによる今までにないパワーを受け取っていくこと。本来のふたご座らしく、特定の権威に飼い慣らされず、あくまでも周辺的存在でいるためには、ただ徒手空拳で「自分の頭で考える」だけでは限界があります。然るべき先人をたずね、その言葉と格闘し、自分がどのような精神的・社会的な系譜のもとに在るのかに深く立ち返っていくことで、それはかろうじて可能になり得るのではないでしょうか。 時勢に惑わされていたずらに今を追う前に、自身の立ち位置を深堀りしていくべし。
6月「選択する覚悟はあるか」
4日にふたご座を運行中の太陽が「覚悟と集中」の土星と調和的な角度(120度)をとっていきます。2020年年末から本格的に迎えた「風の時代」では、ますますどの情報を信じるかで、生きる方向がまったく違ってくる風潮が強まっていきますが、 2020年上半期の節目の一つであるこの時期前後はふたご座にとってそうした自分なりのリアリティを取捨選択していく決定的タイミングと言えるでしょう。どの情報を選択し、誰とコミュニケーションを取っていくのか、相応の覚悟をもって選んでいくこと。
2021年上半期、ふたご座が心に留めておきたい芸術家
岡本かの子(おかもとかのこ)
作家。芸術家・岡本太郎の実の母で、若くして歌人として活躍した後は、法華宗の一門をなすほどの仏教研究家として知られるようになり、晩年になって小説家に転身し女性が主体となって生きる姿を精力的に書き続けた。恋愛を四季の移ろいに重ねる作家が多いなか、仏像的中性美をもとにした“生命力主義”とも言える独自の世界観を展開していった。
「たとへ小米の花の一輪にだに全樹草の性格なり荷担の生命を表現してゐる。地中のあらゆる汚穢をことごとく自己に資する摂取として地上陽下に燦たる香彩を開く、その逞しき生命力。花は勁し」(『花勁し』)