かに座

はじめて降り立った時のように
2021年上半期のかに座のテーマは、 サバイバルの手段としての「散歩」。
たとえば、川や海に流されてしまったとして、やっとの思いでたどり着いた漂着先の岸辺で、はじめて降り立った土地を前にした人間が最初に取る行動が、あたり一帯の散策ないしとりあえずの散歩なのではないでしょうか。
そもそも散歩者のまなざしとは、疎外された者のまなざしであり、それは家庭にも職場にも安住することができず、かと言って完全に自然に還ることもできない移動生活者の見る風景であり、何か好きなことをするための振る舞いと言うより、“いやいやながら何かをしない”ための振る舞いなのだとも言えます。
例えば、フランス革命に多大な影響を与えた思想家ルソーは、最晩年の著作『孤独な散歩者の夢想』において「わたしが集中できるのは歩いている時だけだ。立ち止まると考えは止まる。わたしは精神の足がともなう時だけ働くようだ」とも書きましたが、実際、彼はその危険思想のために永く人々に迫害され、ヨーロッパ各地を転々とする放浪生活を余儀なくされた人でもあり、彼にとって「散歩」とは単なる息抜きを超えた、魂の根底に流れる衝動を体現した生き様そのものでもありました。
ルソーは「僕はこの地球の上にいても、知らない遊星の上にでもいるようなものだ。今まで住んでいた星から、この星へ落ちてきたものらしい」とも書いていましたが、今季のかに座もまた、 いっそはじめてこの世に降り立った人間になったつもりでまっしろな地図上を心のおもむくままに歩き回ってみるべし。
2021年上半期、各月の運勢
1月「拠点を定める」
13日に前後して起こるやぎ座での新月は、「変容と再生」の冥王星とぴったり重なって起こり、かに座の人たちにとっても非常に大きな意味がある節目と言えます。そこでのテーマは「深く踏み込んでいくべき奥の院」。いわば、周囲を散策していく上での拠点の確保です。かに座にとっていのちの源は「水」であり、それは占星術的には気持ちのこもったいきいきとした交流や、感性の潤い、深い安心感を意味します。 今後関わっていく新しい世界を、自分にとってできる限り居心地のよい“居場所”にしていく上で、どこの何を基準にすればよいのか。自分の胸に問いかけつつ、しっかりと見定めていきたいところ。
2月「関わり方の実験と工夫」
12日にはみずがめ座で新月を迎えていきます。ここでは今後の自分の運命を左右するような、文字通り「運命共同体となるべき相手や対象との関係性」が課題となっていくでしょう。そしてその際、みずがめ座のテーマである 「自由でフラットな関わり」「公平な分配」の精神をいかにそこに持ち込めるかが大いに問われていくことになるはず。つまり、相手や対象だけでなく関わり方そのものを新しくしていく訳です。これは思い入れのある対象や相手をつい過剰に抱えこみたくなるかに座にとって、不慣れなやり方であり、実験的な試みとなるとは思いますが、ぜひこの機会にチャレンジを!
3月「欠落を明確にする」
20日の春分の日は、かに座の人たちにとって自分なりの社会的な立ち位置や実現したい目標を見直していく上での格好のタイミング。ただしこう言うとどうしても「高いところから見通しをつける」ような視覚的な方法で目標というものをイメージしがちですが、ここではどちらかと言うと「欠落を埋めてくれるものを探りあてる」といった触覚的方法のイメージに近いかも知れません。今の自分や現状にはないけれど、必要不可欠と思われるものは何か。 できるだけ頭で考えるのではなく、手足を通じて浮き彫りにしていきましょう。
4月「底力を引き出していく」
24日に「危機本能とアグレッシブさ」を表わす火星がかに座に入ります。これは言わば、 「お尻に火がつく」タイミングとも「火事場の馬鹿力」の出しどころとも言えるでしょう。
より具体的には、内奥に眠っている本能やまだ使っていない“生きもの”としての底力を発揮するべく、ある程度文明のもたらす利便性を捨てていくことがテーマとなっていきます。とはいえ、いきなり山籠もりしろという話ではなく、生物としての壊れた本能をごまかし続けるのをやめたり、がさつで粗暴な習慣から絶縁していきやすいタイミングであるということです。特に食事をオーガニック中心に変えたり、早起きに切り替えるなど、衣食住を工夫することで、心身を鋭敏に研ぎ澄ませていきましょう。
5月「風穴を開けていく」
12日はかに座を運行中の火星が、「発明とイノベーション」の天王星と生産的な角度(60度)を取っていきます。内部からの力を引き出していくことがテーマとなっていった先月とは対照的に、今度は外部からの手助けをうまく利用してより自由に独立性をもってのびのび活動していくようになっていくはず。それは最新テクノロジーの場合もあれば、特別な知識をもった専門家に教えを乞うというケースもありうるでしょう。いずれによせここで大事なのは、 相応のリスクテイクをすることで初めて、風穴を開けることができるのだということ。現状維持には不向きですが、大胆な決断をするには絶好のタイミングと言えます。
6月「幸運の種を撒く」
4日にはかに座に入った「対人的な親和力」の金星が、「発展と寛容」の木星と調和的な角度(120度)をとっていきます。これは来年以降への仕込み的な意味が強いのですが、 自然な敬意とリラックスした好感とが両立するような、自分に幸運をもたらす絆が結ばれていきやすいでしょう。それは親近感と用心深さの同居として出ることもあれば、自分の友と敵とを同じように扱うことができるようになる場合だってあるでしょう。いずれにせよ、あなたの人間関係をより多層的で豊かなものにしていくための種をこの時期に仕込んでいきましょう。
2021年上半期、かに座が心に留めておきたい芸術家
アーシュラ・K・ル=グウィン
作家。日本では『ゲド戦記』シリーズの原作者として知られるが、もともとは両性具有の異星人と地球人との接触を描いた『闇の左手』で広く認知されるようになったSF界の女王であり、「西の善き魔女」のあだ名もある。
「ゲド、いいか、ようく聞け。(中略)魔法は楽しみや賞賛めあての遊びではない。いいか、ようく考えるんだ。わしらが言うこと為すこと、それは必ずや、正か邪か、いずれかの結果を生まずにはおかん。ものを言うたり、したりする前には、それが払う代価をまえもって知っておくのだ!」