さそり座

やっちまってナンボ
2021年上半期のさそり座のテーマは、「跳んだり跳ねたり」。
「お金がないのは、結婚できないのは、仕事がうまくいかないのは、すべて“努力が足りない”から?」
もし今あなたの中に少しでもそんな思いが潜んでいるのなら、「努力」に追い詰められる前に、そんな カビの生えた努力信仰など捨てて、ただ生き延びることを第一に掲げよう。
だって、この地上に生まれてきたのは「努力」するためなんかじゃない。今まで試すことができなかったことを試し、堪能できなかったものを堪能し、それを誰かと分かち合うためであったはずで、 2021年のさそり座はこれまで自分を規定してきた枠をかなぐり捨ててでも、そんな生の根本へ大胆に立ち戻っていくことがテーマとなっていくのだと言えます。
例えばこの「捨てる」ということを徹底的に行った人物に、鎌倉時代の仏教僧で他力信仰の果てに家も妻子も捨てて全国を漂泊しながら踊り続けた一遍(いっぺん)がいます。彼はその教えを多くの歌にして残しているのですが、そのうちの一つに次のような歌があります。
はねばはねよ 踊らばをどれ 春駒の のりの道をば しる人ぞ知る(跳んだり跳ねたり、踊ったりすればよい。春の野に遊ぶ馬に乗るように。まことの仏法(「法=のり」と馬に「乗る」を掛けている)の道は、心ある人にはわかるものだ)(『一遍聖絵』)
歌というよりもはや叫びに近いものですが、実際、一遍という人はその力強い身体性に任せて、「ただその瞬間に強くきらめくこと」だけを大切に、最終的には念仏や信心さえも捨てていこうとしました。そうして、その善も悪も、知性も無知も、すべてを無化する力ゆえに、ひろく民衆に受け入れられ、全国行脚を続けていくことが可能になったのです。
まさに他力信仰をみずから地でいったのが一遍だった訳ですが、2021年のさそり座のあなたもまた、 捨てるべきものを捨てて、「やっちまった」を実践してみるところから、狭い現実から解き放たれた新しい生き方が開けてくるはず。
2021年上半期、各月の運勢
1月「塔を飛び出すラプンツェル」
29日前後にはさそり座の守護星である冥王星と、「夢中になれるもの」を表す金星が重なっていきます。これは例えば、ディズニーアニメにもなった『ラプンツェル(髪長姫)』の主人公が、育ての母の言いつけに背いて塔の外へと飛び出していくシーンを思い浮かべてみるといいでしょう。冥王星はたいていの場合、その力をほとんど“封印”されているのですが、金星にはその封印をゆるめてしまう不思議な力があるのです。とことん羽目を外すもよし、どうしても欲しかったものに手を伸ばしてみるもよし。この時期のさそり座には次の言葉を贈るのみ。 「君の馬車を星につなげ!(ラルフ・エマーソン)」
2月「土壌への愛の実践」
24日前後にさそり座の守護星である冥王星と、おうし座を運行中で副守護星でもある火星が調和的な角度(120度)をとっていきます。火星は外に飛び出していくカンフル剤のような星なのですが、この時期はその影響が危なっかしい感じではなく、むしろ 大地に根を張っていこうとする樹木のように粘り強く、根気強く現れては、自分の栄養となりそうなものを探りあて、環境に自分をはめ込もうとしていくでしょう。それはある意味でニーチェ的な<運命愛>にも似た、自身の一部となってくれる土壌への愛の実践でもあり、さそり座の人たちもまたにわかに色めき立ちやすいタイミングとなっていくはずです。
3月「太陽とともに始める」
17日前後にさそり座の守護星である冥王星と、「行動原理としての贈与」を表わす魚座の太陽が生産的な角度(60度)をとっていきます。かつて作家のD・H・ロレンスは「われわれが欲するのは、偽りで非有機的な結合を打ち壊し、コスモス、大地、家族、人類などとの生きた有機的な結合を再び打ち立てることである。まずは太陽とともに始めるがいい。そうすれば、他のことは徐々に付いてくるだろう」と書きましたが、これはまさにこの時期のさそり座のためにある言葉でしょう。そしてここで言う「太陽」とは、自分の得になるから与えるのではなく、与えることそのものを喜びとして、二度と返ってこないつもりで誰かにエネルギーを与えていく姿勢のこと。 不思議なことに与えれば与えるほど、あなたの中から前向きで周囲を元気にするエネルギーが無尽蔵に溢れだしてくるはず。
4月「荒行に励む修行者のごとく」
18日前後にはさそり座の守護星である冥王星が、ふたご座を運行中の火星が非常に緊張感のある角度(150度)をとっていきます。これは“火事場の馬鹿力”的な配置で、とはいえ普段の日常ではほとんど使い道はなく、しばしば突然の強引で強制的な力として発動して振り回されがちなのですが、例えばそのエネルギーを仕事に向けることができれば異常なハードワークをしても集中が切れずに続けることができるでしょう。できればこの時期は限界を超えてとことん追求せざるを得ないような難題を避けるのではなく、むしろ 荒行に励む修行者のごとく、体ごと飛び込んでぶつかっていきたいところです。
5月「自分なりのアンテナを立てること」
おうし座が新月を迎える12日は、ちょうど反対側の星座であるさそり座の人たちにとっても大きな節目となっていくでしょう。古代日本には、疫病が大流行して多くの人々が死に絶えてしまうような事態に陥ったとき、天皇は祓い清められた「神床(カムドコ)」に寝て夢のお告げを得ることで、やがて疫病はおさまり国家安平になったという記録がありますが、この新月前後の時期のさそり座にも、 直面している危機を克服するためのインスピレーションが到来しやすいはず。特にどんな相手がその鍵となるか、あるいは仕事であれプライベートであれ今後のパートナーシップの在り方をめぐる重要な示唆は見逃さないように注意していくべし。
6月「炎(ほむら)立つ」
6日前後にはさそり座の守護星である冥王星と、かに座を運行中の副支配星の火星が正面からぶつかり合う角度(180度)をとっていきます。この配置は「不退転の決意」を暗示しており、おとなしくじっとしているということはまずないでしょう。さながら長く険しい登山を始める際に、必ず頂上へ到達することを自らに課すように、 ここまで来たらもはや何らかの「頂き」にまで突き抜ける形でしか終われないのだ、という思いが自然と強くこみあげてくるはず。炎のような上昇精神を燃やしていきましょう。
2021年上半期、さそり座が心に留めておきたい芸術家
ヴァージニア・ウルフ
作家。それまで主流だった対象を忠実に模写するという19世紀的なリアリズム小説に否を突きつけ、個人の感覚をもって世界の本当の姿を言葉で捉えるべく、まるで意識の流れをそのまま言葉になったような唯一無二の文体を練り上げていった。傑作『灯台へ』には次のような一文が出てくる。
「ほんとに見るためには五十対の眼が必要である、とリリーは考えた。いえ、あの一人の女性を観察しつくすためには、五十対の眼でも充分ではありません。中には彼女の美しさが、まるでわからないという眼も必要です。最も必要なのは、何か神秘な感覚、空気のように精緻な感覚です。」(伊吹知勢訳)