やぎ座

足元を掘る
この約3年間で自分という存在の輪郭や領分がだいぶ明確になってきたやぎ座にとって、2021年上半期はこれまで以上に客観的に、 自分や属している文化や共同体が内包している優れた価値を再発見していくことがテーマとなっていきそうです。
日本人というのはいまだに「進んだ文化」と言われると、相変わらずヨーロッパやアメリカなどを思い浮かべて、自分たちの足元に優れた文化や過去があることをすっかり忘れがちですが、イギリスのピーター・グリーナウェイという映画監督が、1996年に清少納言の『枕草子』にほれ込んでタイトルそのままの映画を撮っています。
英語では『Pillow Book(枕の書)』というタイトルで出版されているそうですが、この監督は1000年も前の女性が奔放自在なものの書き方をしているのにびっくりしたのだそう。
1000年前のヨーロッパというのはまだ十字軍遠征が始まったり、バイキングが活躍していたり、というような時代でしたから、ほぼ同じ時代にいきいきとした話し言葉で「文章を書く女性」が出てくるほど高度に進んだ文化があったということに感動した訳です。
しかも、清少納言は枕草子のなかで例えば「ありがたき(滅多にない)もの」に「よく毛が抜ける毛抜き」を挙げたりしていて、ほとんど現代の女性の感覚と変わらないんですね。それはもう面白いくらいに、いくら科学や技術が進歩しても、人間はそう変わらないのだということを突きつけてくる。
そういう意味では、 過去という異国にも自分自身の分身や、参考にすべきロールモデルとなるような人物だっていくらでも見つかってくるのではないでしょうか。
今季のやぎ座もまた、グリーナウェイ監督のように、同時代だけでなくできるだけ長い歴史的射程で自分自身やその背景について捉えなおしていきたいところです。
2021年上半期、各月の運勢
1月「北風と太陽」
24日に前後して、やぎ座の守護星である土星に、「行動原理としての贈与」の太陽が重なっていきます。イソップ寓話の「北風と太陽」を思い出してみてください。自分を強く見せて抑えつけるより、 ゆっくりでも楽しみながら人に与えていくことでこそ、最終的に大きな成果を挙げられるのです。優しい言葉をかけたり、相手の長所を見つけたり、してほしいことをさりげなくやってあげるなど、ほめ上手や与え上手を心がけることで、贈与の感覚をつかんでいきたいところです。また、同時に自分にとっての旅人=贈与する対象とはどこの誰なのかということも改めて胸に問いかけてみるといいでしょう。
2月「覆水盆に返らず」
18日に前後して、やぎ座の守護星である土星に、「覚醒と変革」の天王星が緊張感のある角度(90度)をとっていきます。自分自身の話であれ、社会的なレベルの話であれ、「どうしてそんなことにこだわるのか?」といった慣習や偏見が浮き彫りになっていきやすいタイミングであり、これは 後で振り返ったときに今年1年を象徴するようなテーマが表れてくるはず。また、何かしら毛色が変わっていることや新しいことを始めると、必ずそれを否定したり足を引っ張ったりしてくる相手が現れたり、そうした出来事が起きてきやすいかも知れません。ただいずれにせよ、一度開いてしまったパンドラの箱は、もう二度と後には戻れないのだということを覚えておいてください。
3月「私の流儀」
22日前後にはやぎ座の守護星である土星と、「キレと活力」の火星が調和的な角度(120度)をとっていきます。さながらトメ、ハネ、ハライなども迷いなく自信をもって筆が走った書道の筆さばきを何度も何度も繰り返すことができるといった職人技のごとく精度とスピードが両立していきやすいため、 この時期に溜まっていた仕事を一気に片付けるとか、自分なりの仕事スタイルや活動パターンの最適化を図っていくといいでしょう。その際、自然と慣れ親しんだものや環境、習慣を捨てていく流れにもなっていくかも知れません。
4月「運命の輪の逆回転」
28日に冥王星がやぎ座の最後の方で逆行を開始します。順行に戻るのは約半年後の10月7日。これは何度も何度も繰り返している「カルマ」のごときテーマや課題に改めて取り組んでいく流れが強まることを表しますが、特に逆行開始直後は分かりやすく出やすいかも知れません。家系の縁をたどってみるとか、住んでいる土地の歴史について調べてみる、自分の社会的使命の系譜をさかのぼるなど、マニアックな調査に乗り出してみるといいでしょう。さらにそこで かなった願いとかなわなかった願い、その必然性の有無について整理していくことで、初めて分かってくることもあるはずです。
5月「心のなかの無知の部屋」
20日前後にやぎ座の守護星である土星と、「親愛」の金星が調和的な角度をとっていきます。これは古典や伝統への回帰の機運が高まりやすい配置と言えますが、それは例えば、「風の時代」ということの本質について、古代ギリシャのアナクサゴラスが「すべてがすべてのもとにある(パン・エン・パンティ)」という<混合>ないし<相互浸透>の世界像として既に約2500年前に喝破していたということに改めて慣れ親しんでいくということでもあると同時に、 自身の底知れぬ「無知」を現に生きることでもあります。知識は持っていればいいというものではなく、いたずらな知識は叡智と人間との関係性を邪魔するばかりであるということを改めて受け止めるべし。
6月「潮目が変わる」
15日前後にはやぎ座の守護星の土星と、「逸脱と刷新」の天王星が今年2度目の緊張感ある角度(90度)をとっていきます。今回は土星が逆行しており、これはこれまでの改革路線への抵抗から受け入れないし同調への態度の軟化や諦念を表します。「現場での現実的な意見や責任感(土星)」と「普遍的観点からの固執や偏見からの解放(天王星)」との軋轢にもろに巻き込まれやすい点は2月から変わっていませんが、それでも時代や社会の潮目が確実に変わりつつことは実感できるはず。ここで 受け入れていかざるを得ないものと、変わらずに持ち続けるべきものとの区別をきちんとつけていくといいでしょう。
2021年上半期、やぎ座が心に留めておきたい芸術家
ジョン・マックスウェル・クッツェー
作家。アパルトヘイト下で、海外に出ることもできたのに、あえて南アフリカに踏みとどまり、現在も同国で創作を続けている。2004年のノーベル賞受賞時には、「アウトサイダーが巻き込まれていくところを意表を突くかたちで描き、また周到な懐疑心をもって、西欧文明のもつ残酷な合理性と見せかけの道徳性を容赦なく批判した」という受賞理由があげられた。特に典型的な西欧インテリの堕落劇を描いた『恥辱』はとにかくネガティブな話なのに傑作という稀有な芸術作品の好例と言える。
「彼とベヴはしゃべらない。いまでは彼女から学んでいた。殺す動物に神経を集中し、それをそそぐべし、と。もう然るべき名で呼ぶことに抵抗がなくなったもの、すなわち愛を」(鴻巣友季子訳)