てんびん座

食わず嫌いの克服
2021年上半期のてんびん座のテーマは、 「浮世離れした楽しみの追求」。
例えば、若き日の水木しげるさんが送り込まれた激戦地ラバウルでの戦争体験を綴った『水木しげるのラバウル戦記』には、戦争中で敵も味方もたくさん亡くなっているはずなのに、なにかと原住民と彼らの集落内で現地の食べ物を食べる場面ばかりが出てきます。
特にパウルという男と英語の単語と身ぶりだけで意気投合していくのですが、その際彼が「オレの畑には豆とか煙草とか芋とかなんでもある。(自分の)足さえよかったら、畑からタピオカをとってきてタピオカもちを作ってやったのに…」と言い、実際に水木さんは後にそれを作ってもらって食べています(しかも水木さん自身も原住民たちに途中からパウロと呼ばれ始める)。
お互いに異邦人を“面白がる”性質だったことが大きかったと自身で述べているのですが、片腕をなくしたり、上官になぐられたりしている一方で、読んでいると食べたくなる料理や食べ物のことを熱心に綴っていた水木さんの胸の内は、きっと異世界での人との出会いの喜びで充ちていたのでしょう。
今季のてんびん座にとって、そうした日常の小さなユートピアを発見し大切にしていった水木さんの姿勢は、大いに指針となっていくはず。そこでは、今まで食わず嫌いをしてきたものを克服しなければいけない場面も出てくるかも知れません。しかし、逆に言えば、 そうしたところにこそ1~2年先の未来に花開いていく可能性が広がっているのだということも忘れずに。
2021年上半期、各月の運勢
1月「自然と視野が広がっていく」
13日に前後して、てんびん座の守護星である金星が「壁を取り払う」天王星と調和的な角度(120度)をとっていきます。この二つの星の組み合わせは「交渉役」を表わしますが、これはともすると現状維持の壁に阻まれがちな天王星の性急な変革・改善願望に、金星が和解策や折衷案を提供しつつ、遺恨や不満が残ることのないよう自然と橋渡しをしていくということ。 自然と人間関係もこれまでの枠を超えて広がっていきやすかったり、閉じ込められていた偏愛がこなれていきやすい時期なので、今まで手を出してこなかった領域に手足を伸ばしてみるといいでしょう。
2月「異端に振り切れる」
6日前後にはみずがめ座を運行中の金星が、今度は天王星と緊張感のある角度(90度)をとっていきます。これはかなりの衝撃で平衡感覚が揺り動かされる「逸脱と反抗」の配置で、 ふだんとは異質の趣味趣向が持ち込まれたり、主流ではない異端的な要素に惹きつけられていきやすいでしょう。さながら、古びた寺院に最新の機材を運び込んで音楽イベントを開催し、炬燵の間にシャンデリアを、着物にヒジャブを合わせるようなものですが、案外そうしたところから次なる主流や定番が生まれてくるものではないでしょうか。逆にふだんからこうした“遊び”に慣れている人にとっては、いつも以上に楽しみにながら試行錯誤する時間を過ごしていくことができるはず。
3月「人間離脱」
14日前後にはうお座を運行中の金星が、「夢幻と非日常」の海王星と重なっていきます。さながら“かすみ”を食って生きる仙人のごとく、現実離れしていきやすいでしょう。金銭感覚などがおかしくなりやすいので注意が必要ですが、一方で、 個人の枠を大きく越えた何らかの大いなるイメージ実体や理想、時代精神へと溶け込んでいきやすく、どこかふわふわと雲の上を浮いているような心地がするかも知れません。かつて西行は「世を捨てはてて身は無きものと思へども」と歌を詠みましたが、人間を捨てて鳥や魚や空気そのものになりきってみるのも一興でしょう。
4月「支配からの卒業」
12日のおひつじ座で迎える新月は、てんびん座の守護星である金星と重なる形で形成されることもあり、大きな節目となっていくでしょう。ここでのテーマは、 自分の中の思い込みや大いなる幻想から自分の意志で抜け出していくこと。それはどこか飛行機の窓からふだん暮らしている土地を眺めてみた時のような感動を伴うはず。その際、自分ひとりでは心許ないと感じたら、可及的速やかに仲間や先輩、先生的立場の人物に相談してみること。くれぐれも失敗を招くような尊大な孤立に一人とどまることのないよう、勇気を出して手をあげていきましょう。
5月「多様な価値観の共存をめぐって」
20日前後にはふたご座を運行中の金星が、「不寛容さへの問題意識」を表わすみずがめ座の土星と調和的な角度(120度)を取っていきます。ここで言う不寛容とは、考え方を異にする他者を暴力的に排除してしまうことで、歴史的には差別や迫害、そしてその背後にあるものとしての宗教的狂信と結びついてきました。人類愛を叫びながら隣人を憎悪するといった事態がこれまで幾度となく起きてきた訳ですが、この時期のてんびん座は、どうしたらそうした“不寛容さのもたらす不幸”の二の轍を踏まずにいられるかということについて、 自然とリスク回避に向かい、気を配るべき事柄を意識していくことになるでしょう。
6月「直感の奔流」
22日にかに座を運行中の金星は、さそり座の月、うお座の海王星とともに水のグランドトライン(大三角形)を形成します。これは「生きた実感、生きた心地の充実」を象徴する配置であり、知的で人との距離感を大切にする風の星座であるてんびん座の人たちが普段わりと放置してしまいがちな、なまなましい生命的なエネルギーが奔流となって押し寄せてきたり、それに飲み込まれていくようなところがあるかも知れません。けれど、それはいつまでもどっちつかずになりがちなてんびん座に、 今後の生き方や方向性を左右するような何らかの確信めいたものを与えてくれるはず。この時期に見た夢をきちんとメモして記録しておくのもお勧めです。
2021年上半期、てんびん座が心に留めておきたい芸術家
フィリップ・K・ディック
SF作家。『ブレードランナー』として映画化もされた『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が有名だが、一貫して「ニセの記憶と改ざんされた歴史」をテーマに、現実と虚構、幻視と歴史の境界線を突き抜けようとするハイパー・リアリズム的作風を展開していった。中でも晩年の傑作『ヴァリス』では、神秘体験を通して紀元70年を境に本当の歴史は停止しており、再スタートしたのはウォーターゲート事件が発覚した1974年。その間人類はニセの記憶を植えつけられていたというビジョンを得た男が主人公=語り手として登場し、読者が電波系なのか自分が知らなかった真実が含まれているのか分からなくなるという意味でも、これは最高度の“騙り”と言えるのではないか。