おひつじ座
文化が立ち上がってくるところ
早春のつぼみに戻って
今週のおひつじ座は、『揺れやすきところより花咲きそめし』(山上樹実雄)という句のごとし。あるいは、みずからを「揺れやすきところ」に置いていこうとするような星回り。
作者が17歳のときの作。まだ冷たさを残した風に揺れる梢のさきに、ふと咲き始めた桜の花を見出したのでしょう。
「揺れやすきところより」という措辞などは、確かな観察眼と対象に寄り添う繊細さの両方がそろって始めて紡ぐことのできる言葉ですが、これとまったく対照的なのが、自分が「揺れる」というところからまったく遠いところに身をおいて言葉を紡ぐ習慣がついているのが現代人なのではないか、という風に考えてしまいます。
その背景にあるのは、もうこれ以上傷つきたくないとか、他人の不幸は蜜の味とか、どうせ〇〇に決まってるとか、身を縮こませていくような、世間をより狭く小さくしていく動きですが、3月20日に自分自身の星座で春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていく今週のあなたに求められていくのは、その反対の動きとなっていくはず。
すなわち、思春期の作者のように、自分の心が傷ついてでも、冷たき風に身をさらし、未知に向かって開かれていこうとするような、早春の桜の花のような動きを。
日常のその先を見つめる
肉体労働をしながら49歳で著作を発表し、「沖仲士(おきなかし)の哲学者」と呼ばれたエリック・ホッファーは、7歳で母が死に18歳で父が死んでから天涯孤独の身でした。
彼は後年「本を書く人間が清掃人や本を印刷し製本する人よりもはるかに優れていると感じる必要がなくなる時、アメリカは知的かつ創造的で、余暇に重点をおいた社会に変容しうるでしょう」(インタビュー「学校としての社会に向けて」)と述べていますが、これは現代の日本社会においても同じことが言えるかも知れません。
私たちは生きている。そして働いている。しかし一方で、自分自身の置かれた状況を嘆き、暇があれば愚痴を言い、社会や上司や他人のせいにして、悪者探しと不幸自慢で一生を終えようとしているように見えますが、そんなことにはもうコリゴリだというのが今のあなたの心境でもあるのではないでしょうか。
ホッファーがかつてそうであったように、例え日々の労働をやめるだけの余裕などとてもないのだとしても、いまここから自生的に立ち上がり、自分なりの知見を深め、知的かつ創造的に文化を創造していくことだってできるはずです。
読み、書き、調べ、考え、紙にまとめ、発表する。そうしたプロセスは、歩き、しゃがみ、持ち上げ、踏ん張り、こらえ、洗い、たたむといった日常の一連の動作と本来シームレスにつながっている。今週のおひつじ座もそんなつもりで、自分の日常の先にある可能性について思い巡らせてみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
無名の者の技芸